〜Dark side of the moon〜
憑依






「千奈美?…いないの?」

 たかだか数分程度のことだったが、一人残された直子にとってはとてつもなく長い時間に感じられた。車をトンネルの傍に寄せると、運転席から降りて親友の名前を呼ぶが返事は無かった。
 舗装された道路のあちこちに雪が残っているが、轍の跡もなく、最近人が通った様子は無い。早くしないと、真っ暗になってしまうかも…。次第に焦りの色が直子の顔に浮かぶ。
 …とはいっても、中に入って千奈美を探しに行くような勇気は持ち合わせていなかった。ちょうど入り口付近の非常灯が切れているらしく、奥の方は吸い込まれそうなほど暗い。

「千奈美!…ねぇ、早く帰ろうよぉ。」

 大声で叫んでみるが、相変わらず反応は無い。声はわずかに反響しながら、暗い穴の奥に消えていった。

「(一人で行かせるんじゃなかったな…。)」

 少し彼女にに甘えていたところがあったかもしれない。どちらかといえば引っ込み思案な性格の直子とは対照的に、明るく積極的な性格の千奈美。今日のように直子が落ち込んだりしているときには励まして引っ張ってくれる。

「(何だろう…あれ…?)」

 暗闇に少し目が慣れたのか、トンネルの内部の様子がぼんやりと見通せるようになってきていた。奥の方で切れかけの非常灯が点滅しているのが見えたが、その前を人影が横切ったような気がしたのである。

「千奈美なの…?」

 恐怖心は拭い切れなかったが、意を決して暗がりの中に足を踏み入れる。そして足元を確かめながらゆっくりと2、3歩進んだ時だった。予想もしていなかった方向、それも至近距離に人の気配を感じた。

「……っ!?」

 一瞬呼吸が止まるほど驚愕する直子。気配がした方に振り返ると、すぐ間近に立つ黒い人影が見えた。反射的に叫び声を上げかけたが、その人物の着ているものを見て、ほっとため息をつく。

「…なんだ、千奈美じゃない。びっくりさせないでよ。」

 ちょうど胸から上の辺りが影になっていて顔は良く見えなかったが、羽織っているコートは確かに先ほど見た千奈美のものだった。

「ねぇ…早く帰ろうよ。何も無かったでしょ?」

「うん……何も……無かった。」

 その喋り方にふと違和感を覚えた直子だったが、親友のいつもの声であることは間違いない。千奈美の手を握ると、車の方へと引っ張っていった。

「すっかり暗くなっちゃっ………痛っ!…何?」

 車のドアに手を掛けた瞬間、急に千奈美が手首を強烈な力で握り返してきた。そのまま腕を捻り上げられてしまう。
  
「千奈美っ!?…何するの?」

 千奈美は動揺する直子を車のボンネットに押し付けると、覆い被さるように顔を近付けてきた。

「やっと…あなたに……会えた」

 そう呟く千奈美の唇が、直子の唇に重ねられた。さらに体を預け、より深いつながりを求めようとする千奈美。

「………!!」

 キスされたことに最初は気付かなかった。ただ、親友の顔が間近に迫ってきた直後、生暖かいものが自分の唇に押し当てられたことだけは感じられた。闇雲に顔を左右に振ってその感触から逃れようともがく。

 …しばらくして、自分への圧力が消えていることに気付いた直子は閉じていた目をゆっくり開いた。じっとこちらを見つめている女の子の顔が目に入った。

 見慣れているはずの親友の表情は、妙に生気が薄いように感じられた。正面から向かい合っているのに、こちらを見ていないような虚ろな瞳。そして唇の端にはわずかに血が滲んでいた。先ほど暴れた時に傷つけてしまったのだろうか。

「ねぇ、千奈…美……」

 その刹那、返事の代わりに乾いた音が辺りに響き渡った。何が起こったのかわからない直子。ただ突然熱くなった頬に手を当てて呆然とする。平手打ちを受けたことに気付くにはしばらくの時間を要した。何か喋ろうとするが、突然襲った衝撃で頭が回らず、言葉がつむぎ出せない。

 一方、無言のままの千奈美は直子のスカートの腰のところ、合わせ目に手をかけた。直後、ファスナーが壊されて布が切り裂かれる音が響き、スカートがただの布切れと化す。力のある者なら出来ることなのかもしれないが、およそ女の子がやるような所業では無い。

「ひっ!…や……ぁ…ぁ…」

 切り裂かれたスカートの合間から白い下着がのぞいていた。しかし直子はそれを隠そうともせず、両手を重ねて口に押し当てながら途切れ途切れの悲鳴を洩らしていた。寒さで薄紫色の唇が小刻みに震えている。

 千奈美はそんな直子の腰に手を回すと、軽々と抱え上げた。その拍子にスカートがするりと地面に落ちたが、拾おうともせず、そのまま後部ドアを開けると座席の上に放り出した。

「きゃぁっ!」

 乱暴に座席の上に転がされて、悲鳴を上げる直子。あわてて起き上がろうとするが、視線を上げた時には、もう千奈美の顔が目の前にあった。

「あ……」

 長い黒髪が特徴的で、おとなし目の雰囲気を漂わせる直子とは対照的に、千奈美はショートカットと勝気そうな大きな瞳が目立つ、明るい顔立ちである。お互い背丈はさほど変わらないが、プロポーションが良く、くびれた腰のラインは既に大人の女性を感じさせる。今日はミニスカートに黒いタイツという出で立ちで、脚の長さが特に際立っている。

――そして、正面に見える赤い唇に目が留まった。空気は乾燥して肌を刺すように冷たいのに、そこは瑞々しく潤っていた。

「ねぇ、またキスしたい?」

 再び口を開いた彼女の言い回しは、妙に子供っぽく感じられた。直子の返事を待たずに、千奈美は身体を下へと滑らせる。顔が視界から消え、唇が白い首筋に押し当てられた。途端に動悸が激しくなり、熱い息を吐く直子。千奈美の柔らかい唇が鎖骨の方まで這い回る感触が、甘く痺れるような刺激となって身体中に広がっていく。

「やぁっ!…やめて…千奈美……」

 予想だにしなかった親友の行動にどうしていいかわからない直子だったが、みぞおちのあたりに直接手が滑り込んできたのを感じて本気で抵抗し始める。いつの間にか千奈美の両手がキャミソールの裾から潜り込み、素肌の上を滑っていた。そして胸のふくらみにたどり着くと、ブラジャーの上から2つの頂きを爪の先で軽く引っ掻いた。

「ぁ…あ……やっ!…ぁ…」

 直子の口から押し殺しきれない甘い声が洩れ、腰がわずかにくねる。羞恥心もさることながら、女の子同士で体を寄せ合っていることへの背徳感が頭の中に充満する。いくら人通りが少ないとはいえ、公道の上で車のドアを半開きにしたままでは、いずれ誰かに見られてしまうかもしれない。

 千奈美の行為は強引さを増し、今度はブラジャーごと上に押し上げて、直子の胸の双丘を完全に露出させた。薄く色づいた桃色の蕾は、心なしか普段よりその存在を主張しているように見えた。千奈美の顔がゆっくりと近付き、撫でるような吐息が頂きにかかる。

「んっ……あぁ…や………」

 暖房を切ったままの冷えた車内の中で、直子の肢体は次第に熱を帯び始めていた。抑えきれない、疼くような衝動が身体の奥から湧き起こってきたのがはっきりと感じられた。千奈美の熱い息がかすめる度に、少しずつ胸の尖りが硬くなっていくのが自分でもわかる。親友の目にはどう映っているのだろうか…。そんなことを考えただけでも羞恥心で心が張り裂けそうになってしまう。頬を赤く染めながらうつむく直子。

 抵抗が一瞬止んだ隙に、千奈美は直子の胸の先端を口で含み、舌をそっと絡ませた。

「ん……!ぁ……」

 もうこれ以上声を出すまいと耐えていた直子の口から、喘ぎ声にも似た音が洩れた。千奈美の舌が細かく動き、ねっとりと唾液が絡みつく。そして離れ際に一番敏感な場所が唇の間に挟まれた瞬間、電撃のような刺激が身体の芯を走り抜ける。

「あ……あぁああっ!!!」

 快楽の波が下半身の一点へと集中し、思わず腰を跳ね上がる。その拍子に身体の奥から熱い粘液が大量に零れ出し、ショーツの底へと染み込んでいった。”ごぼっ”という効果音が直子の頭の中で響いたような気がした。

「(やだ…隠さなきゃ……)」

 濡れているのが自分でもわかるほど、ショーツと女の子の場所との間に愛液が溜まっていた。下着の上から触られるだけでも、直子が感じていることは容易にばれてしまうだろう。
 悪いことに、上から覆い被さっている千奈美の太腿のところがタイツ越しに直子の股間に触れていた。そっと腰を引いて身体を離そうとする直子。腰を左右に振ったり、足を突っ張って身体ごとずらそうとするものの、千奈美の脚はぴったりとくっついたまま離れない。
 
 そんな動作を繰り返しているうちに、ぐっしょりと濡れたショーツと敏感な部分が擦れ合い、もどかしい快感を生み出していた。ぬるっとした感覚が素肌にも伝わり、羞恥心をさらに高めていく。

「(千奈美に…ばれちゃう……)」

 自分の身体がこうも容易く女としての反応を示してしまうことに信じ難い思いを抱く。しかも女の子同士なのに…。

 そむけていた視線をふと正面に戻すと、微笑を浮かべた千奈美の顔があった。心から笑っているようには見えず、何か作り笑いを浮かべているような、そんな違和感があった。

 千奈美は直子の首筋に顔を近付けると、わざとらしく匂いを嗅ぐような仕草を見せた。…そして言った。

「ねぇ…まだおしっこの匂いするよ。……ちゃんとパンティは変えたの?」

「……!!」

 予想外の問いかけに、直子の全身がびくっと震える。下腹部に力が入った瞬間、おびただしい量の潤滑液が新たに湧き出し、吸水力の限界を迎えた布地の端から滲み出た。

 ただ、今の直子にはそんな自分の身体の変化に気を回している余裕は無かった。何故おもらししたことを知っているのか? ひょっとしたら濡れた跡の残るベッドを見られてしまっていたのだろうか…?疑念の渦に飲み込まれそうになりながら、直子はショックで唇を戦慄かせていた。

「それに……ここから女の子の匂いまで派手にまき散らしちゃって…恥ずかしくない?」

 嘲るような調子で言うと、千奈美は直子の股間に押し付けた太腿を上下に動かした。

「(ばれて…た………?)」

「だって、あたしのタイツまでじっとり染み込んじゃってるんだもの。
 感じ易いんだ、直子ちゃん。」

 直子の動揺を見透かしたように千奈美が続けて言った。そして今度は膝頭を使って直子の両脚をさらに割り開こうとする。

「やだっ!…見ちゃやだぁっ!」

 慌てて起き上がろうとするものの、既に快楽に溺れ始めていた身体はすぐに言うことを聞かない。それどころか、千奈美の指でショーツの底を撫で上げられただけで、背中が反りあがるほど激しい官能の波が直子を襲った。

「ふあぁっ!!!……ん!!」

「すごい…ひょっとして、もう剥けちゃってるのかな?」

 千奈美は恥丘の下、女芯があるとおぼしき場所をショーツの上から指の腹で小さい円を描くように揉み込んだ。

「…っ!…らめぇ、そこ、触っちゃやぁ………」

 直子の顔に戸惑いと羞恥と、そして官能が入り混じったような表情が浮かぶ。一番敏感なポイントからはわずかにずれていたが、甘美な感覚が急激に広がって腰の奥まで痺れてしまう。

 直接触られたら、どうなっちゃうんだろう…。恐怖とも期待ともつかない感情が直子の胸に湧き起こった。本当にたまにしかしないが、自慰をするとき、女の子の場所に指で触れた経験はある。稚拙な指戯で入り口の辺りを上下にこするだけでも、頭がぼうっとなるような感覚に襲われた記憶がある。しかし今、千奈美の指が下着の上を這い回るだけで、頭の芯まで快楽で支配されてしまいそうになっていた。

 もう、このまま身をまかせたい…。あきらめにも似た思いが直子の心の奥から浮かび上がる。そんな直子の気持ちを知ってか知らずか、千奈美のしなやかな手が、ショーツの端から侵入してきた。女の繁みをかき分け、剥き出しの若芽に指の先が触れる。

「そこ……やぁ・…は…ぁ……ああっ!!」

 直子の下半身がこれから迎えるであろう女の悦びへの期待で打ち震える。無意識の内に腰を浮かせ、千奈美の手を追い求めるような仕草を見せた。

「……??」

 しかし、侵入者は予想していた場所を通り過ぎ、さらにショーツの奥の方へと潜り込んでいった。そして、その目的地がわかった時、直子は狼狽の声を上げる。

「いや……そんなとこ…触っちゃだめぇっ!!!」

 千奈美の指先がお尻の谷間の奥、菊の蕾の入り口を捉えていた。内腿までぐっしょりと濡れるほど溢れた愛液のおかげで、そこは湿り気を帯びていた。

「やだ…千奈美……指、離して……」

「…どうして?電車の中ではあんなに悦んでたじゃない…。
 ここ…好きなんでしょ?」

 その千奈美の言葉を聞いて、身体の火照りが一気に引く直子。

「何で…?何でそんなこと知ってるの?」

 まさかあの場に千奈美がいたのだろうか?もしいたとしても、お尻を陵辱されたなんてことは知らないはずである。

「あなた…誰……?」

 見慣れているはずの親友の顔なのに、目の前にいるのは別人ではないかという気さえしてきた。

「忘れちゃったの?あたしは……」

 微笑む千奈美の指先に力が入り、排泄口への圧力が増していく。少しずつすぼまりが広がる感覚が、直子を絶望の淵へといざなっていった……。











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