〜Dark side of the moon〜






――遠くに街の灯が見えてきた。
 
既に陽は沈み、辺りは夕闇に閉ざされようとしていた。街路灯の光が車と同じスピードで後方へと去っていく。

 ほとんど交通量も無く、運転初心者の直子でも気楽に走れそうな道だが、ハンドルを握る彼女の指先は何故か小刻みに震えていた。

「―寒いの?直子ちゃん。」

 助手席に座る女の子…千奈美が運転席の方に体を寄せながら声を掛けてきた。

「ひっ!」

 千奈美の手がわき腹の辺りに滑り込んできたのを感じて、直子は短い悲鳴を上げて身を固くした。はずみで車を蛇行させてしまい、危うく反対車線にはみ出しそうになる。

「触らないでっ……!」

 運転する直子の下半身はショーツ一枚という格好だった。先ほど千奈美の手で引き裂かれたスカートは、車内に見当たらない。おそらくトンネルの前に捨て置かれたままなのだろう。

「危ないなぁ…早く街に行こうよ」

 いつもの雰囲気とは全く違う、妙に子供っぽい口調で喋り続ける千奈美。その手は直子の太腿を優しく撫で上げていた。

――憑依

 非科学的なことはあまり信じていなかった。しかし、例のトンネルから出てきた後の親友の豹変ぶりは理解の範囲を越えていた。少なくとも、冗談で直子をからかっているようなレベルではない。まるで別の人格が取り付いているようだった。

「(街へ行けば、誰かに助けを求める機会があるかも…)」

 一縷の望みを抱いて、直子は車を走らせ続けた…。


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 車をドラッグストアの駐車場に停めると、千奈美はドアを開けて外へと出て行った。一人車内に残された直子だったが、すぐに行動を起こすことはためらわれた。車のキーも、彼女のコートも千奈美が持って行ってしまった。どこかの交番に飛び込めば…とも考えたが、上半身にセーターを羽織っただけの格好で外を走れるだろうか?

 20台は入るであろう広い駐車場には、まだ半分くらい買い物客の車が停まっていた。時間は夜の7時を回っていたが、この街で夜遅くまで開いている数少ない店ということもあり、出入りする買い物客の姿もちらほらと見かけられた。

「(やだ…見られちゃう…)」

 周囲は暗いとはいえ、駐車場に設置された照明で車内もぼんやりと照らし出されていた。誰かにのぞきこまれたら、スカートを身に着けていないことがばれてしまうかもしれない。人影が車の近くを通り過ぎるたびに、セーターの裾を必死に下に引っ張ってショーツを隠す。

「(気付かないで…見ないで……)」

 早くしないと千奈美が帰ってきてしまう…。人目を避けることに気を遣う一方で、直子は焦燥感を募らせていた。またあんなことをされたら…と想像するだけで、お尻の底に疼くような感覚がよみがえってくる。無理やり押し広げられた排泄穴には、まだ完全に締まりきっていないような、何か異物が挟まったままのような違和感が残っていた。
 親友の指で恥ずかしいすぼまりを押し広げられたとき、自分はどんな表情をしていたのだろうか? そのことを考えただけでも、羞恥心が高まって頬が熱くなる。

「直子ちゃん、おまたせ。」

「――!」

 あれこれ考えているうちに、千奈美が戻ってきてしまった。何か店で買ったのか、手に小さな紙包みを持っている。再び助手席に乗り込むと、直子の顔をじっと見つめた。

「直子ちゃん、顔赤いよ…さっきのこと、考えてたんでしょ……」

 そう言うと、直子の上から覆い被さるように、体重を預けてきた。続けて片脚をつかまれ、シートの上で向きを変えさせられた。狭い車内の中で無理やり両脚を広げられ、恥ずかしい場所を、正面から千奈美に見られてしまう。

「やだっ…!どいて、千奈美っ…!」

 赤ちゃんがオムツを替える時のような格好で、脚をばたつかせる直子。両腕を突っ張って体を起こそうとするが、千奈美を押しのけることはできなかった。

「ちょっとじっとしててね…」

 千奈美の手元の方から何か袋を開けるような音が聞こえた。その直後、ショーツが横にずらされたかと思うと、お尻の谷間を押し広げられる。

「やぁっ…そこっ……!」

 また恥ずかしいところをいじられてしまう…。圧倒的な千奈美の力の前に、直子の心が絶望感で満たされようとした…その瞬間、お尻の底にちくっとした痛みが走った。

「え……?」

 怯えた視線を下に向けるが、千奈美が何をしているのか直接見ることはできなかった。しかし、続けて冷たい液体が体の中に広がってくる感覚が直子を襲う。

「ひっ!何……何入れたの……ねぇ…?」

「これ…見たことあるよね?」

 千奈美が手にしていたのは、イチジク型の小さな容器だった。押しつぶされた中身の底に、透明の液体がわずかに残って揺れているのが見える。

「それ…ぁ…あぁ……」

「お尻に力入れないと、すぐ漏れちゃうよ。」

 言われるまでも無く、直子は反射的に入り口を必死に締め、薬液が漏れ出すのを防いでいた。しかし、お尻の谷間を押し広げられているせいで、思うように力が入らない。

「冷たいの…出ちゃう……ぁ…」

「大丈夫、すぐに次のを入れてあげるから…」

 既に千奈美は2つ目の浣腸液を手に取ると、再び直子のすぼまりに先端を押し当てていた。ためらうことなく一気に根元まで挿し入れて、容器を握りつぶす。わずかに漏れ出した薬液が透明な筋を作ってシートを濡らすが、大半は直子の中へと飲み込まれていく。

「暴れると、お尻が切れちゃうよ……」

 そう言いながら、千奈美は次の容器を紙袋から取り出した…。


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 運転席のシートの上にしゃがみ込む様な体勢で、直子は身悶えていた。座席の上には、空になった容器が5、6個ほど転がっている。苦悶の表情を浮かべる彼女の額には脂汗が滲んでいた。

「さっきお尻に指入れた時、奥に固いものがあったから…
 便秘じゃないかと思って、浣腸してあげたんだよ。」

 助手席で直子の様子を眺めながら、楽しそうに千奈美は言った。

「そんなの……ん…ふぅっ……」

 言葉を発するのも辛いのか、荒い息をつきながら必死に耐えていた。浣腸液の効果はすぐに現れ、濁流のような便意となって下腹部を駆け巡っていた。少しでも肛門を緩めれば、一気に内容物が迸ってしまいそうだった。

「トイレ…トイレに行かせて……」

 決壊寸前の門を踵で押さえつけながら、ハンドルに上体を預けて身を震わせる直子。ごろごろと腹部で音が鳴るたびに、歯を食いしばって苦悶の表情を浮かべていた。白い肌にじっとりと浮かんだ汗が、胸元を伝って落ちていく。

「いいよ、行ってくれば…?」

 突然、運転席側のドアが開いた。いつの間にか千奈美が車から降りて回りこんでいたのである。肩を掴まれて、車内から引きずり出されてしまう。

「いやぁ…だめっ…!!」

 地面に降りた拍子にバランスを崩し、引き締めていた括約筋が一瞬緩む。一気に便意が膨れ上がって濁流が駆け下ってくるが、すんでのところで力を入れ直し、出口を堰き止めた。

「じゃ、あたしはここで待ってるから。」

 千奈美は代わりに運転席に乗り込むと、直子の目の前でドアを閉めた。内側からロックをかける音が小さく響く。

「千奈…美……」

 強烈な便意を何とかやり過ごした直子は、下腹部を緊張させたままゆっくりと立ち上がった。

「ねぇ…開けて……千奈美…」

 手のひらで窓ガラスを叩く。そうしている間にも短い間隔で便意の波が下腹部に押し寄せ始めていた。

「お願い…漏れちゃう……ここからじゃ、トイレ行けない……んぁっ!」

 ドアの取っ手を何度も引いてみる。やはりロックしてあるらしく、ぴくりとも動かない。キーは車の中に挿しっ放しだ…。

 冬も終わりとはいえ、夜の気温は氷点下を大きく下回る。むき出しの下半身から体温が奪われ、我慢し続けるのに必要な体力も、気力も次第に薄れ始めていた。寒さで緊張した腸の動きが急に激しくなり始めたような気がする。

「お願い…千奈美…早く……」

 もし、千奈美がドアを開けてくれたとしても、自分の家まで運転するだけの余裕は無かっただろう。しかし、それ以外に選択肢が思い浮かばない直子は、頬を涙で濡らしながら、必死に車内に呼びかけていた。

「………」

 声は聞こえなかったが、千奈美が口に指を当てると、別の方向に視線を送った。最初は何のことかわからなかったが、不意に人の気配を感じてはっとする直子。涙でぼんやりとした視界の端に、こちらに向かって歩いてくる男女の2人組の姿を捉えた。おそらく買い物帰りの客であろう。

「(やだっ…ぁ………)」

 慌ててしゃがみ込んだが、腹圧がかかった拍子に、後ろの谷間から水っぽい破裂音が響き渡った。

「いっ!……ゃ……ぁ……」

 咄嗟に手を後ろに回して出口のあたりを押さえる。決壊した…かと思ったが、わずかに布地が湿っているだけで、まだ最悪の事態はまぬがれていた。

「(聞こえた…?来ないで……お願い……)」

 今の音を聞かれてしまったのではないかという疑念が渦巻く中、2人組は車の前を通り過ぎようとしていた。直子がしゃがみこんでいる場所は照明の関係で少し陰になっているものの、2人がちょっと横を向けば、すぐに彼女の姿を見つけることはできそうだった。

「(早く…通り過ぎて………)」

 目を閉じて息をひそめ、必死に祈る直子。果たして、足音は止まることなく段々と小さくなっていった。

「良かった……ぁ?…あっ!!…だめぇっ!!!」

 少しばかり気が緩んだ瞬間だった。タイミング悪く最大級の便意の波が直子を襲った。内容物が濁流のように出口を目指す。括約筋を締め上げる、ほんのわずかな遅れが最悪の事態を招くことになった。
 すぼまりが内側から押し広げられる感覚と共に排泄欲が体中が支配して、直子の制御下を離れてしまう。再び立ち上がろうとしたものの、中腰の姿勢で固まってしまった。

「出ちゃ…ぁっ…ひぅっ!!」

 窓ガラスを爪で引っかきながら、直子が悲痛な声を上げた。半開きになった口の端から唾液が垂れて顎を伝う。歯の根がかみ合わず、内腿が自分の意志とは無関係に痙攣し始めた。

「あ…あぁ…も…だめぇ………」

 弛緩した肛門がわずかに開くと、茶色い液体が何度か噴き出して、下着に丸い染みを作った。そのまま少しばかり間を置いて、直子の表情が絶望の色で染まる。瞳が丸く見開かれると同時に、ショーツの後ろ側が一気に盛り上がって染みを大きく広げた。太腿には茶色い筋が何本もできて靴下まで同じ色で汚れていく。
 
「まだ…ふぁ…うぅんっ……ぁ」

 直子がうめき声を上げて身体を震わせる度に、下着の中の排泄物は容量を増していく。そして緩んだ股間からは熱く香る液体が迸り、溜まったものを溶かしながら外へと溢れ出していた。

「千奈美……」

 親友の名を呼びながら、その場に崩れ落ちる直子。ショーツの中で温かい感触がお尻全体に広がり、解放感と相まって、言いようの無い曖昧な歓びが身体を走り抜けた。


 …その様子を見届けると千奈美はドアを開けて車から降りた。直子の傍らにしゃがみ込むと、ほとんど意識のない彼女の黒髪を撫でながら言う。

「ごめんね、直子ちゃん…」

「でも…あたしを置いて、ここから…この街から出て行ってしまうなんて許せない…。
 ずっと…そばにいてよ、直子ちゃん……」


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「……?」

 気がつくと直子は、自室のベッドで横になっていた。服装は普段着のままだったが、下半身はショーツ一枚しか身に着けていなかった。今は何時くらいなのだろうか…?家の中も、外も、静まり返っていた。

「そうだ…私……」

 おぞましい記憶が次々とよみがえってきた。飛び起きて部屋の電気を付け、自分の身体を確かめる。

「夢……?」

 お漏らしした時の感触は、鮮明に残っているのに、お尻や太腿が汚れている様子は無さそうだった。

「なんだ………」

 安堵のため息をつきながら、今度は姿見に体を映してみる。妙にやつれた表情をしている自分に少し驚くが、ゆっくりと背中の側まで振り返って見た。

「……!!」

 ショーツの後ろ側には、茶色の染みが丸く、大きく広がっていた。力なく床にへたり込む直子。やっぱり、夢じゃなかったんだ…。呆然とする彼女の頬に涙が零れ落ちた…。








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