〜研究所 (後編)〜

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「(ここは……?)」

 頭を左右に振るたびに、少しずつ意識の靄が晴れてきた。急に蛍光灯の光がまぶしく感じられる。視線の先には殺風景な天井が広がっていた。

 傍らに人の気配を感じて、ゆっくりと視線をそちらに向けた。

「所長?」

 傍らに立つ女性の顔を認識するまでに、しばらくの時間を要した。重たい水車のようにゆっくりと、思考が回りだす。

「すみません、私、こんなところで寝てしまって……ぁっ!?」

 慌てて起き上がろうと力を入れた瞬間、四肢がぴくりとも動かないことに気付く。ひねることも、横にずらすこともできない。

「(何なの、これ……?)」

 両手は左右に広げられ、両足は真っ直ぐに伸ばされた状態で、大の字に拘束されていた。仰向けに寝かされている台には、金属製のリングが埋め込まれていて、それらが彼女の両手、両足首の自由を奪っている。

 自分の身に危機が迫っていることを直感しながも、ミレーヌは薄く笑みを浮かべ、わざと戸惑ったような声を出す。

「所長、あの……、何が起こってるんでしょうか? これって冗談、ですよね?」

 しかし、そんな必死な演技も、所長の一言によって無駄なものとなる。

「あら、一介の研究員がこんなものを身に着けているのかしら?」
 
 彼女が手にしていたものは、ミレーヌが先ほどまで身に付けていた隠し武器であった。胸に装着する銃器だが、非常に薄く、弾力もあって、外見からは装着していることがわからないようになっている……はずだった。

「A国の技術って、意外と進んでいるのねぇ……
 体の一部をサイボーグ化していても、女の営みは滞りなくできるみたいだし」

「(やっぱりばれていたのね、私の素性……スパイだってことも)」

 研究所に潜り込んだ時点で、既に知られていたのだろうか。それとも、最近になって何かぼろを出してしまったのだろうか。とにかく所長と取り引きしてでも、脱出の機会をうかがう必要がある。

「そう……。研究以外興味無いような顔をしているのに、やはり頭は切れるのね、
 フェイ・ウィスキー」

 もう研究員のふりをしたところで仕方がない。A国のエージェントとして所長に話しかける。

「あら、お世辞を言っても何も出ないわよ。」

 所長はミレーヌの言葉を軽く受け流すと、デスクの上に置いてあった金属製のメスを手に取った。

「(……!)」

「レーザーとか、超音波メスが小型化したおかげで、最近はさっぱり使われなくなったけど……
 私、これが好きなのよ。」

 ゆっくりと所長の手が近づいてくる。そして首筋にぴたりと当てられた切っ先が冷たい感触を伝えてきた。

「殺すの……?私を始末したところで、既に研究所のデータはA国に送信済みよ。」

「ふーん、そう」

 興味無さそうにつぶやきながら、メスを持った手を下の方へとずらしていく。衣服と刃先が擦れ合う音が微かに響き、ミレーヌは思わず身を固くする。

 そしてタイトスカートの上でメスを垂直に立てると、ぴんと張り詰めた布地に軽く沈みこませた。

「ひょっとして、ここにも武器を隠しているのかしら……」

「さぁね、試してみたら?」

「……そうするわ」

 言い終わるなり、全く躊躇することなくメスは真下に突き立てられた。生地の避ける音、そして固いものに突き当ったような鈍い音が響いた。

「あ……ぁ……」

 一気に血の気が引き、冷たい汗がにじむ。全身の感覚が薄れて、メスが自分の体に突き刺さったのか、かすめたのか、自覚できない。
 太腿が不規則に痙攣して、下半身から力が抜けていく。

「いやっ……あっ!!」

 一瞬、股間に熱いものを感じて、ミレーヌは我にかえった。迸りかけた液体を止めようと、慌てて力を込めなおす。
 次第に薄れていた感覚が戻ってくる。どこにも痛みは感じない。凶刃は彼女を傷つけたわけではなさそうである。

「あら、気が強いのね」

 ミレーヌの呼吸が整ってきたのを見て、所長の瞳に満足そうな色が浮かぶ。

「今までにも、その台に何人もの女性を拘束して試してみたんだけど……
 あなたみたいなスパイもいたけど、今ので気を失ったり、お漏らししちゃった子も多いのよ。」

 メスを持った手が上下に一閃し、黒いタイトスカートが真っ二つになった。健康的な肉付きの太腿があらわになる。付け根から足首まで、均整のとれたスタイル、弾力のありそうな瑞々しい肌。眺めているだけでも扇情的な脚である。

 所長がミレーヌの白いショーツの底に指先を伸ばす。そして微かな笑みを口の端に浮かべた。
 先ほど迸らせてしまった熱い液体で湿っているのがわかったのだろうか? 女スパイの肌が羞恥で薄紅色に染まる。

 所長の指がしなやかに動き、下半身に一枚だけ残った布地をずらす。そしていきなり最奥部へ向けて指を滑り込ませた。

「ぁ……や、ぁっ」

 あまりにもスムーズに侵入されたことに戸惑い、思わず声が洩れる。ミレーヌの花弁はいつの間にか十分に潤っていた。しかも指を少し動かされる度に、奥から愛液がとめどなく湧いてくる。

「(眠っている間に、何か飲まされたの!?)」

 しかし、身体の異変の理由に思いを巡らすような余裕はなかった。女芯を覆っていた包皮を剥かれると、それだけで脊髄に電撃が走り、全身に悦楽の波が押し寄せる。

「くっ……ん……ぁあっ」

 襞の内側を指で擦り上げられると、嬌声を上げて応えてしまう。

 もっとして欲しい……。快楽の波が理性を押し流し、自分が置かれている状況すら忘れてしまいそうになる。

「あ……ぁ……んああっ」

 一番敏感な場所を触ってほしい……。無意識の内に膨れ上がる期待感から、声のトーンが一段上がり、甘いものになっていく。

 しかし、タイミングを見計らっていたのか、それとも偶然か、挟間を侵していた指がすっと抜かれてしまう。

「ふぁあっ!」

 離れる間際、指先が剥き出しの芯をかすめ、ミレーヌは全身を突っ張らせて刺激に反応する。

 一旦離れた手は、間髪を入れずに今度は尻の挟間へと潜り込む。

「あっ……何?……やめっ……」

 艶やかな尻の底、菊のすぼまりを弄られた瞬間、狼狽と恥じらいのこもった声が部屋に響いた。そのまま所長の細い指は、じわじわと奥へと潜り込み、第一関節まで体の中に埋没する。

「抜いて……いやぁっ!」

 わずかに自由になる腰をくねらせて、抵抗するミレーヌ。

「ここは、サイボーグ化してるのかしら?」

 ゆっくりと、穴を広げるように揉みほぐされる。

「後ろが好きな男だっているんだから、当然開発してるんでしょ?」

「そんなこと……ない……」

 押し出してしまいたいのに、腸壁は侵入者を締め付け、離そうとしない。それどころか所長が力を入れるに従って、さらに奥へと飲み込んでしまう。

「やめっ……ぁ……あ……くふぅっ!」

 内側の襞を押し広げるようにかき回される度に、腰が跳ね上がり、前の谷間は溜まった愛液を溢れさせる。嫌悪感と心地良い刺激の入り混じった奇妙な感覚が全身を支配しようとしていた。

「(だめ……耐えなきゃ……絶対、脱出しないと……)」

 歯を食いしばって耐えようとしても、すぐに力が抜けて唇がだらしなく開き、涎が頬をつたう。

「あ……ぁ……もう、だめ……ぁあああっ!!!」

 視界に閃光がスパークして、限界が目前に迫った瞬間だった。排泄感が突然消え、侵入者がミレーヌの体から離れていく。

「さて……ここら辺でやめておきましょうか。次は、これをあげるわ。」

 白く反転していた視界が正常に戻ってきたとき、そこには注射器を手にした所長の姿があった。

「(自白剤……?)」

 スパイ活動の内容を聞きだそうというのだろうか? しかしそれを見て、逆にミレーヌは冷静になることができた。体の一部をサイボーグ化した際、体内の数か所にほとんどの薬品をろ過できるフィルタを埋め込んだからである。

 薬に冒されたふりをして、偽の自白をすれば脱出への活路が見出せるかもしれない。そんな淡い期待を抱いていたミレーヌの首筋に薬が打ち込まれた……。



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「ん……ぁ……」

 ミレーヌが体を捩る度に、彼女の四肢を拘束しているリングが、微かな音を立てる。肌は悦楽で紅く染まったままだが、可憐な顔には戸惑いと苦悶の表情が浮かんでいる。薄い眉は切なげに寄せられ、唇を噛みしめて何かに耐えている様である。

「あら……どうしたの?」

 少し離れたところに腰掛けて、ミレーヌの様子を眺めていた女所長が声を掛けてきた。
「何でも……ない……」

「腰をいやらしく捩ったりして……何を我慢してるのかしら?」

 顔を寄せてきたフェイの声が耳元で響いた。

「……ぁ……やぁっ」

 噛み締めていた奥歯の力がふっと緩み、下半身の力が抜けかける。慌てて太腿を締めようとするが、拘束具に邪魔されてうまく力が入らない。

「(漏れる……漏れちゃうっ)」

 秘所の奥にある水門を内側からこじあけようとする力。それが先ほどからミレーヌを苦悩させている原因である。

「(こんな急激な体の変化……薬のせい? でも、そんなはずは……」

 熱い吐息を不規則に洩らす女スパイの顔を眺めながら、フェイが口を開く。

「体に埋め込んだフィルターで薬は無効化できるはずなのに? そう思ってる?
 でも、残念ね。そんなものはナノマシンで破壊させてもらったわ」

「そん、な……」

「注射した薬の効果は、あなたが今感じている通り……」

「んっ……」

 フェイの吐息がミレーヌの耳たぶをかすめる。くすぐったさが排泄衝動に割り込み、彼女の精神を混乱させる。

 下腹部の奥で内圧が急激に増すたびに、腰を左右に揺すって耐える。意識を失っている間に、ショーツは元通りに履き直させられていた。

「あら、もう限界なの?」

 水分を湛えてわずかに膨らんだ下腹部をフェイの手が撫で回す。そして指先が布地の上から挟間をなぞり上げる。

「あっ!……やぁっ!」

「さっきまで、ここを触られて悦んでたくせに」

 フェイはショーツの底に残るぬるっとした感触を楽しみながら、後ろの方にを指を伸ばす。

「!!」

 おぞましい悦楽の記憶が体の奥から呼び覚まされ、下腹部の膨張感と混じり合う。じっとりと汗が滲んだ美しい脚が小刻みに震える。

「また……触ってあげようか?」

 凌辱者の手に力がこもる。

「いやあぁ! 無理! やめて……ぇ」

 普段の大人びた雰囲気とは程遠い、少女のような、悲鳴にも似た声が上がる。水圧に耐えかねた排泄穴がひくひくと震え出したのを感じて、ミレーヌの心に絶望が広がる。
 それでも奥歯を噛み絞め、足の指を丸めて下半身に力を込め直し、最悪の事態を回避しようと精一杯の抵抗を続ける。

「あら……本当に限界なのね。
 もう少し楽しみたかったけど、そろそろお別れにしましょうか」

 そう言って、所長はデスクの上のスイッチを操作した。それと同時にミレーヌの四肢を拘束していた金具が外れた。

「もう今更、あなたを殺す必要もないの。研究所は今日で破棄され、私たちは国外へ逃亡……。」

 ミレーヌを見下ろしながら妖艶な笑みを浮かべるフェイ。切れ長の瞳が、一層細く、色っぽく見える。

「あなたが急いで本部に戻って報告すれば、間に合うかもしれないわね」

「そうさせて……もらうわ……」

 固定されていた台からゆっくりと脚を下ろした瞬間、膀胱の重みが急激に増して感じられた。おぼつかない足取りで所長室の出口へと歩いていく。
 ドアを開けて通路に出ようとした時、所長が何か言ったような気がしたが、もうそれを聞き取るほどの余裕は無かった。


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「ん……ぁあっ……」

 ミレーヌの足が止まる。通路の壁にもたれかかり、少し身を屈めて荒い息を吐く。内股になった両脚の付け根を手で押さえ込み、身を捩る。

「(早く……逃げなきゃ……)」

 彼女の下腹部は相変わらず激しい尿意によって支配されていた。自室に戻ればトイレもあるが、そんな時間の余裕はないだろう。

 ここで、通路で用を足してしまえば……。そんな考えも頭をよぎるが、羞恥心が邪魔をして、下着を下げることをためらわせていた。
 これだけ溜まった水分を放出するのに、何十秒かかるのだろうか。普段はそこそこ人通りも多く、ここまで来るのに人と会わなかっただけでも奇跡的である。

「(もう少しで、出口だから)」

 自分に言い聞かせて、再び足を前に出した。通信機の類は全て所長に取り上げられてしまっている。自力で脱出して、本部まで戻るしかない。

 内腿には透明な液が伝い落ちて、通路に点々と染みを作っていた。水門が決壊したわけではない。秘所の奥から愛液が大量に湧き出し続け、下着をぐっしょりと濡らしているのである。
 先ほど打たれた薬の副作用なのだろうか。再び燃え上がった悦楽の炎が全身を焦がし、尿意をさらに高めていた。
 
「何をしている!?」

 突然、男性の声が前の方から響いた。顔を上げたミレーヌの視界に警備員の姿が映る。

 男は驚いた表情で視線をさまよわせていた。それもそのはずである。目の前に白衣をはだけて太腿をあらわにした女性が苦悶の表情を浮かべてうずくまっているのである。

 ショーツ1枚の下半身。熱っぽく上気した顔。ミレーヌとしても、研究員のふりをしてやり過ごすには難しすぎる状況である。

 訓練された女スパイの体がとっさに動く。鳩尾めがけて膝を叩き込み、前屈みになった相手の後頭部めがけて肘を振り下ろす。気を失った警備員は床に倒れこみ、ぴくりとも動かない。

「ぁ……だめっ……」

 ミレーヌの口から苦悶の声が洩れる。一瞬のこととはいえ、打撃の反動が彼女の貯水槽を揺らし、尿意の波を最大級に高めていた。
 出口を押さえて放出を防ごうとするが、下着に広がった熱っぽい湿りの感触が手のひらに伝わってくる。

「でちゃう……でちゃうっ!」

 もう崩壊を止めることはできそうになかった。最後の力をふりしぼって何歩かよろよろと歩く。その間にも滲みだした小水は手の端から少しずつ零れ落ち始めていた。

「(ここで……もう……)」

 できるだけ見つかりにくいような通路の陰に身をひそめてしゃがみこみ、下着に指をかけて下ろそうした瞬間だった。

「どうした? 大丈夫か?」

 先ほどの男が倒れている場所のあたりで、複数の声が響いた。どうやら他の警備員たちのようである。

「(もう……見つかったの?)」

 乱れた足音が響く。異常事態に気付いた男たちが周囲を調べ始めたようである。

「(来ないで……今は、だめぇ……)」

 直接見通せはしないが、数メートルしか離れていない場所である。見つかるのは時間の問題だと思われた。下腹部の圧迫感に耐えながら立ち上がり、乱れた白衣の裾を整える。

 警備員たちが彼女の目の前に現れたのは、その数秒後だった。

「誰だ? IDを見せろ!」

「私……イリーナです。ここの研究員です」

 必死に表情を押し殺しながら、胸につけたIDカードを指差した。

「(早く、向こうへ行って……)」

「そこに警備員が倒れているんだが……何か見なかったか?」

「いいえ、今そっちから歩いてきたところなので……ぁあっ!」

 通路の反対側を指し示そうと身を捻った瞬間、ミレーヌの瞳が丸く見開かれた。

 断続的に押し寄せていた尿意の高波が引こうとしない。もう少しなら耐えられる……。そう思っていたのに……。

 堤防を越えて溢れ出した水を止める術はなかった。背中を壁に預けて膝をがくがくと震わせる。

「何だ? あんた……!?」

 再び前屈みになった彼女の白衣の裾から白い下着がのぞく。男たちの視線がその一点に集中した。

 無駄だとは知りつつも、水門の出口を手のひらで必死に押さえる。

「んぁ……ぁ…ああっ!」

 足もとにひとつ、ふたつと水滴が垂れ、ミレーヌは全身をびくっと震わせた。それを合図に、緩んだ尿道から、一気に黄金水が溢れ出す。布地の裏で渦を巻いた水流が外に押し出され、内腿に何本もの筋を作る。
 元々水分をたっぷり含んだ下着には少しも吸収されず、熱い液体はそのまま重力に従って下へと落ちていく。

「ぁ……あ……いやぁあああっ!!」

 未知の甘美な刺激が彼女の全身を貫く。膀胱が収縮する感覚と共に、羞恥と解放感に脳が支配されていく。

「見ないでっ……見ない…で……」

 瞳に涙を湛え、首を振って懇願する。気丈な女スパイの面影は消え失せ、青ざめた唇を震わせながら何度も嗚咽を洩らす。

 広がっていく足元の水溜まりをぼんやりと眺めるミレーヌの心を、絶望が染め上げていく……。








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