…物憂げな表情を浮かべながら、1人の女性が窓の外の景色を眺めていた。 眼下には大きな帆船も楽に通れそうな規模の運河が流れ、対岸には石造りの商館が立ち並んでいる。ここはロードス最大の港町、自由都市ライデンの一角である。 もっとも、正確に言えば運河を挟んだこの地域だけは評議会による統治からは除外されていて、街の一部とは認められていない。 ――娼婦街 貿易都市として発展を遂げ、様々な人が集まるようになれば、自然にそういった下世話な商売も始まろうというものである。その昔、街の治安と品性の低下を憂いた当時の権力者によって一掃されてしまったこともある。しかし結局は場所を変え、ライデンの街外れに歓楽街が再び形成され、現在に至っている。 今では評議会の商人たちとの金銭的なつながりも深く、彼らの庇護の下で商売をしていると言っても過言ではない。実際、ライデンの街中よりも治安は行き届いていて、最近では金持ちや身分の高そうな客まで遊びにくることも少なくない。 「ようこそ、いらっしゃいませ」 隣の部屋の方から応対する声が聞こえた。また客が来たらしい。先程窓の外を眺めていた女性は椅子から立ち上がると、部屋の入り口の方へゆっくり歩いていった。 もちろん彼女がいるこの建物も、ご多分にもれず売春宿である。ただし、他の店とは客層が一風変わっていることで知られていた。 ――異常性愛者。 …と言ってしまうと身もふたもないが、どうも金持ちや高貴な身分の男の中には、時として倒錯的な趣味に走ってしまう者もいるらしい。小さい頃から何不自由なく暮らし、普通の女遊びにも飽きてしまった者たちの行き着くところ、とでも言えば良いだろうか。 そんな連中の欲望のはけ口として、この宿は存在していた。要求されるものは多岐に渡り、魔道具を用いた陵辱、冒険者の格好をしての性交、女性を縄で縛り上げて鑑賞する…など様々である。 「何でもお申し付け下さいませ、旦那様」 応対している店の者の態度が急に丁重になったところを見ると、今来ている客も金払いが良さそうである。 入り口の扉に耳を当て、隣の部屋の様子をうかがっている彼女は、名をリーアといった。そのまま垂らせば腰の辺りまでありそうな長い金髪を頭の高い位置で束ねている。一見中性的にも見える顔立ちだが、勝ち気そうな大きな瞳が特徴的で、凛とした雰囲気を漂わせている。 女性としては比較的上背のあるその体には、肩口が大きくカットされて丈の短い薄緑色のチュニックを着用している。裾から見える太腿は女性らしく細身だが、均整がとれていて健康的に日焼けしている。ぱっと見た限りではおよそ娼婦らしくない。 「みんな出払っている時にお客さんなんて、ついてないなぁ…」 そもそも彼女は好きでこんなところで働いているわけではない。つい数週間前までは冒険者、それも女剣士として旅をしていたのだ。 「(ライデンの街なんかに長居するんじゃなかった…)」 最近急激に治安が悪くなり、盗賊ギルドまで暗躍し始めたこの街で、気軽に依頼を引き受けたのが転落の始まりだった。妙に順調に進んだ仕事、仲介人の失踪、着せられた濡れ衣、そして高額な違約金の請求。まさに最初から何者かに仕組まれたような展開だった。 「(…思い出したくもない)」 結局借金のかたに、娼婦街のとある店に押し込まれ、現在に至っているというわけである。 そんな状況にありながらも、リーアの表情や仕草にはそれほど悲壮感は見られない。元々、彼女も貧困層の出であり、幼い頃から同じような境遇で働く女性たちを散々目の当たりにしてきたからだろうか。 「さっさと借金返して、こんなとこ出ないと…」 嫌な気分を振り払うように、独りつぶやくと、リーアは扉を細く開けて、今来たばかりの客の様子をうかがった。別に彼女が客を選べるわけではないのだが、やはり気になってしまう。 この建物は一階が酒場になっているのだが、奥に入っていくと娼婦館の応対口がある。リーアが今いるのはその隣、店の女たちの控え室として使われている部屋である。 「(随分と若い客ね……)」 顔は良く見えなかったが、その背格好から、成人前の若い男の子ではないかと思われた。この店に遊びにくる客といえば、大抵は中年の金持ちばかりだった。しかも怠惰な生活のなれの果てと言わんばかりの体型をした連中である。 「リーア、お客さんだ」 応対をしていた店の男が、こちらを向いて鋭く言い放った。どうやらリーアが覗いていたのに気付いていたようである。 「はいはい、わかってますよ。」 少し投げやりな調子で返答しながら部屋を出た。そんな彼女のところへ男が素早く近寄ってきて耳元で囁く。 「初めての客だが、金払いが良さそうだ。粗相のないように頼むぞ。 それと、………の格好がしてみたいそうだ。」 軽くうなずくと、リーアは客の手をとった。 「ではお客様、こちらへどうぞ。」 そしてさらに奥の部屋へと向かう細い廊下を歩き始めた。 「(ほんとに若い子なんだ…)」 望まない仕事とはいえ、どうせ同じことをするなら、汗臭い中年の男たちよりも若い男の子の方が良いに決まっている。もっとも、この歳で金払いが良いということは、どこかの金持ちの商人か権力者の息子なのだろう。 背丈はリーアより低く、体つきもほっそりしている。手を握っただけでちょっと緊張するような素振りを見せるあたり、女性経験も少なそうである。案の定、宿の部屋に入っても所在無さげに視線をさ迷わせ、どうすれば良いのかわからない様子だった。 「とりあえず、そこで湯に浸かって下さいね。 お望みでしたら、一緒に入りますけど、どうします?」 部屋の隅、カーテンで仕切られた一角には陶器製の浴槽に湯が張られていた。ライデンのような大都市においては、このような設備を備えた施設は近年一般的なものとなりつつあった。 「いえ…自分で…入りますから…」 消え入りそうな声で言うと、男の子はカーテンの向こう側へと消えていった。 楽な客だな…と少しばかりほっとするリーア。一緒に湯浴みをすることを要求した上に、浴槽の中で身体を求めてくる客も時々いるのである。 「着替えはここに置いておきますね」 リーアはそう言って店が用意した衣類一式をカーテンの裾から浴槽の方へ押し込み、ベッドに腰掛けた。 湯浴みを終え、男の子が出てくるまでには、妙に長い時間を要した。短気な性格も手伝って少しイラつき始めていたリーアだったが、着替えを済ませた彼の姿を見て思わず感嘆の声を上げてしまう。 「すごい…とっても似合ってますよ、お客様」 ”女戦士の格好をして交わりたい” それが、今日の客の注文だった。要するに倒錯した女装趣味というやつである。世の中には色々な性癖を持った男がいるというが、生憎とリーアは女装趣味に理解を示したことはない。そもそも、女装の似合う男なんていないと思っていた。少なくともつい先ほどまでは。 目の前の男の子が装着しているのは、女の剣士がよく好んで付けるタイプのレザーアーマーである。なめし皮を主体として作られたもので、防御力こそ高くないが、軽くて身体にフィットするので素早い動きに対応することができる。 手甲、腕、胸、脚とそれぞれパーツが分かれていて、二の腕や臍、太腿の辺りは素肌が露出している。そして腰回りは布製の短いスカートになっていて、女性らしさを感じさせる組み合わせとなっていた。 「……?」 しばらく感心しながら眺めていたリーアだったが、突っ立ったまま頬を赤らめて視線を逸らした男の子の様子を見て首を傾げた。 「(女装したのが初めてで緊張してるのかしら? それとも、本当にこういう所での経験が無かったりして…)」 リーアは腰掛けていたベッドから立ち上がると、少年の正面に立ち、肩にそっと手を這わせた。 「(…まぁいいか。こんな可愛らしい子の相手するなんて初めてだし、少しだけサービスしてあげようかな。)」 そんなことを考えながらゆっくり顔を寄せると、唇同士をそっと触れ合わせた。そして男の子の体を引き寄せると、唇を割り開いて自分の舌を侵入させる。相手は一瞬肩を震わせて拒むような仕草も見せたが、リーアは構わず深く口付けを交わしていく。 「んん…んぁ……ぁ…」 最初は息をすることも忘れていたかのように苦しがっていたが、次第に慣れてきたのか鼻から甘い声を出し始める。 「(女の子みたいな仕草するのね……)」 至近距離にある相手の顔をそっとのぞくと、眼をしっかり閉じて何かに耐えるような表情をしている様子が見てとれた。 小さくて目鼻立ちの整った顔。ショートだが、しなやかにウェーブをえがいている黒髪。本当に小さな女剣士を犯しているような錯覚にとらわれてしまう。 十分にお互いの舌を絡ませあった後で一旦顔を離す。口の端からはしたなく唾液がこぼれ、焦点を失った瞳はリーアの方を向いていない。まだ何とか自分の足で立ってはいるものの、今にも力が抜けて崩れ落ちてしまいそうである。 お互いの背中に腕を回した姿勢のまま、ベッドに倒れこむ2人。リーアは相手を仰向けに寝かせると、その横で半身を起こす。そして予め用意しておいた布製のロープでベッドの頭側の脚に、両手を縛り付けてしまった。男の子は手足を縮めて力なく抵抗したものの、結局は万歳をするような格好で拘束されてしまう。 「こんなの…やだぁ……」 顔をそむけ、弱々しい声を搾り出す小さな剣士の頬を涙が伝う。こんな姿を見てしまうと、彼に女性経験が多くあるとは到底考えられない。思わず罪悪感を覚えたリーアは一瞬ためらって動きを止めてしまう。しかし、すぐに何か思いついたように目を輝かせると、自分の腰帯を解いた。そして無抵抗の少年に目隠しをすると、耳元で優しく囁く。 「大丈夫…私が色々教えてあげるから……」 「何する…の……?」 突然視界をふさがれて怖くなったのか、小刻みに震えていた唇をそっと指で抑えるリーア。 「いいから…力…抜いてて……」 そう言うと、ベッドの上で震える少年のあごから首筋にかけて手を滑らせた。続けてレザーアーマーの隙間から露出した素肌を優しくほぐすように撫で回す。 「ふぁ…あぁ……ぁ……」 特に性的な嫌らしさもない、ごく普通のスキンシップのつもりだった。それでもリーアの手が触れる度に、下になっている男の子の口からは微かな喘ぎ声が漏れ始める。 緊張を解きほぐしてあげようとした彼女の意図とは裏腹に、次第に体をくねらせては微妙な愛撫から逃れようとする。 視界をふさがれ、次にどこを触られるかわからないせいか、逆に身体中の神経が研ぎ澄まされつつあるようだった。 「ぁ……ひんっ!」 小さいがはっきりとした嬌声が部屋の中に響く。それがきっかけとなったのか、少年の動きと声は急に激しさを増し始めた。女性の前で痴態を晒すまいと耐えてきた精神の箍もあっけなく緩んでしまったのだろうか。 それに合わせて自然とリーアの愛撫も大胆なものへと変わっていく。両手を頭上に固定されているせいで無防備になっている脇の下や、わき腹の窪みに手を差し入れると、ツボを押さえる時のような刺激を送り込む。 「やっ…だめぇっ…そこはっ……ぁ……」 敏感な場所に触れられる度に、くすぐったさと、明らかに官能のまざった感覚が少年の身体を走り抜けているようだった。 「敏感なのね……これから楽しみだわ……」 調子にのったリーアは男の子の耳元で囁いた。まるで美少年をいたぶるお姉さま、といったところである。何度か軽く耳たぶを噛んで反応を楽しんだ後、今度は胸から下腹部の方に向かって手を滑らせていく。 「ん…ぁ…ひんっっ!!」 皮製の胸当ての上を撫で回した瞬間、少年がひときわ大きな嬌声を上げる。その様子に少し違和感を覚えたリーアだったが、そのまま構わずスカートの中へと手を伸ばす。 「…あら、あなた、律儀にこんなものまで着けちゃってるのね」 彼女の指先に、レザーの感触が伝わった。当然スカートの中は下着だけだと思っていたのに、股間を覆う防具までご丁寧に装着していたのだった。 「外すね……」 腰の両サイドに手を回して、器用にアーマーの留め具を解除するリーア。 「やだぁっっ…外さないでっ!だめぇっ!」 突然少年がベッドの上で暴れ始めた。リーアから身体を離そうと自由な両脚を踏ん張って身を捩じらせる。 「大丈夫……私に任せて……」 今はこんな仕事をしているとはいえ、冒険者として鍛えてきた彼女の腕力にかなうわけもない。リーアは男の子の両脚の間に膝を入れて割り開くと、再びスカートの中に手を挿し入れて、下着の底に触れた。 「………?」 予想していたものとは全く異なる感触が手のひらに伝わってきた。慌てて相手のスカートを腰まで捲り上げて確かめるリーア。そして、彼女の目に飛び込んできたものは… 「あなた……女の子、だったの……?」 |
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