〜巫女譚歌〜
シャルロット<2>






 …目の前に、幅広の布に裸体をくるみ、安心したような寝顔で規則正しい寝息を立てている巫女がいる。

 先ほど見せていた恥態が嘘のようだな…とナコルルの清楚な顔を眺めながら、シャルロットはぼんやりと考えていた。
 湯浴みをして体の汚れを洗い落とすと、シャルロットの勧めに素直に従い、たき火のそばで横になったナコルルはすぐに深い眠りについてしまった。

「(よほど疲れていたんだな…。無理も無いか、あんなことがあっては。)」

 細身の体を震わせながらシャルロットを見つめた時の黒い瞳が思い返された。涎と汗で汚れた顔ではあったが、色っぽさと美しさが同居した異様な雰囲気に思わず引き込まれそうになってしまった。
 そして、抱き締めた巫女の身体の細さに正直驚いてしまった。自分に比べれば日本人女性は皆華奢に見えていたが、激しい戦いをくぐり抜けてきた彼女も例外では無かったのだと改めて気付く。

 …無意識の内に自らの唇に長い指を当てていた。先ほどナコルルと交わした深い口付けの感触がまだ残っているような気がする。同性とそんなことをしたのはもちろん初めてだったが、嫌悪感などは全くと言っていいほど無かった。むしろ甘美な感覚が全身に広がったのをはっきりと覚えている。

 やはり私はこの少女に会いに蝦夷に来たのだ…。改めてはっきりと自覚するシャルロット。ナコルルの故郷、カムイコタンの村の手前まで来ながら、隣村の外れの小屋にだらだらと滞在して先に進もうとしなかったのは、自分の気持ちに整理がつかなかったからかもしれない。

 ―――同性愛は悪徳である。

 ふと故郷の国の教えが頭をよぎるが、横で眠るナコルルの安らかな寝顔を見ていると、罪悪感はどこかに消えてしまいそうになる。

「ん………」

 寝返りをうつナコルル。小屋の中が寒いせいかもしれないが、横を向いて少し丸まった姿勢で寝るのは彼女の癖なのだろうか。ちょうどシャルロットの方を向いたその顔が、たき火の炎に照らされて細かいところまではっきりとわかる。湯浴みをしている彼女を見ていたときにも感じたことだが、肌の繊細さ、きめ細やかさは自分の持ち得ないものだと思う。

「ふぁ……んん………」

 熟睡しているように見えるナコルルが、鼻にかかったような声を発した。

「ナコルル…?」

 普通の寝言にしては様子がおかしい。直接は見えないものの、掛け布の下で細い脚をくねらせるようにして、もどかしげに擦り合わせているようである。規則正しかった寝息も急に熱を帯びてきたように見受けられる。顔を見ると、普段は白く透きとおるような頬がほのかに赤く染まっていた。

「(先ほど言っていた、薬の影響が残っているのか…?)」

 寝返りをうったり、脚を動かしたりしていたせいだろうか、肩が掛け布からはみ出て肌が露出していた。シャルロットは立て膝をついたまま、横になっているナコルルに音を立てないようにしながら近付く。
 布の端を手にとり、首の辺りまでそっと引き寄せてやろうとしたその時、

「ふぁぁっ!!…あぁ…ぁ………」

 か細くはあったが、はっきりとした高い声が2人きりの小屋の中に響いた。

「す、すまんっ。ナコルルっ!?」
「起きて…たの………か……?」

 特にやましいことはしていないはずなのに、思わず動転するシャルロット。慌ててナコルルの顔をのぞきこむが、少し息が荒くなっているものの、目を覚ました様子はない。ふと視線を下に落とすと、ナコルルの2つの膨らみがあらわになっていた。乱れた掛け布の端から桃色の小さな蕾が顔をのぞかせている。普段どうなっているのか見たことはないが、気持ち先端が尖り出しているようにも見えた。

 …自分の吐息まで熱くなっているように感じられた。いつの間にか呼吸が浅く速くなっているのに気付いて、ひとつゆっくりと深呼吸して落ち着こうとする。

「(ばかばかしい……)」

 同性の裸を見ただけで、今さら何で生娘のような反応をしなければならないのだろうか…。もう一度、今度はナコルルの肌にできるだけ触れないようにしながら寝床を整えてやる。

「ひんっ…………!!」

 注意していたつもりだったが、ひどく敏感になっているらしい柔肌と布が擦れ合った瞬間、しゃくり上げるような悲鳴を喉の奥から漏らすナコルル。

「(やっぱり…感じてるのか……?)」

 目の前の少女が上げた、明らかに官能の色が混ざった声がシャルロットの頭の奥に響いた。冷静になろうと努めていた金髪の騎士の鼓動は次第に高まり、そばで燃えているたき火がはぜる音も耳に入らなくなってくる。

 体が、熱い。

 床に腰を落とした姿勢のまま、自分の身体の変調を自覚するシャルロット。いつの間にか自分の太腿の間に滑り込ませていた手で、無意識の内にゆっくりと付け根の辺りをさすり始める。もう一方の腕を胸の辺りに回し、豊満な2つの膨らみを下から抱え上げる。

 内腿を往復していたシャルロットの手が股間の方へ移動し始めたときには、すでに次の行為を求める期待感で頭の中が支配されつつあった。

「ん………」

 麻でできたチュニックと呼ばれる服の裾を乱しながら、下着の底に長い指が触れた瞬間、ぬるっとした感触が伝わってきた。予想外の自分の身体の反応に一瞬驚いたものの、そのまま指を押し付けるようにして布越しに何度も敏感な場所の上を往復させる。

「ん……んぁ…ぁ………」

 目の前の少女に気付かれないように唇を噛み締めて耐えていたが、身体の昂ぶりと共に荒くなってきた呼吸に耐えられなくなり、次第に官能の混じった声が漏れ始めた。秘所に這わせた指にさらに力が入り、潤んできた内襞と下着が擦れ合う刺激が甘い電撃となって全身に広がる。
 自然ともう一方の手は、胸の頂きを包み込むように遠慮がちに揉み始めた。服の上からではあるが、弾力のある膨らみに指が沈み込む。

 座った姿勢で前に投げ出していた両足が絡み合い、もどかしげに擦り合わされる。たき火の光が彼女の金色の髪に反射して輝きを放っているが、幻想的というよりは艶やかさを感じさせる光景である。

「ナコ…ルル……」

 潤んだ碧眼に黒髪の巫女の姿が映った。シャルロットの悩ましげな声が耳に入ったせいではないだろうが、掛け布が上下する様子から、先ほどよりも呼吸が速くなっているように見える。
 普段は清楚な雰囲気を漂わせているナコルルの半開きになった口から熱い吐息が漏れている。それを見たとき、気のせいではなく、自分の胸が急激に高まるのを感じた。

 …そして、ナコルルの可愛らしい赤い唇を見た瞬間、頭の中に不埒な妄想がよぎってしまった。

 自分が想像した行為が何であったのか、深くは考えたくなかった。『時には宗教や現世の戒律から解き放たれて欲望のおもむくままに行動しても良いはずだ…』という言い訳が心に浮かぶ。完全に割り切れたわけではなかったが、立ち上がると服に手を掛け、そっと床に脱ぎ捨てた。

 先ほどナコルルの繊細な肌を羨ましがっていたシャルロットだが、彼女の西洋人らしい肌の白さにも目を見張るものがあった。火に照らされて陰影がはっきりと浮かび上がり、絵画のような美しさである。
 シャルロットの指が胸の前で紐を解くような動作を見せると、胴体ごと包み込んでいた胸当て型の下着が滑り落ちた。豊かだが、つんと上を向いた形の良い膨らみがあらわになる。桃色の蕾を指で軽くつまみながら両手で揉み上げると、期待していた通りの快楽が身体の芯を貫く。

「…あ……ふ…ぁ……んぁぁ……」

 厚手の生地の上からでは伝わらなかった甘い刺激が絶え間なく送り込まれ、聡明な騎士の理性を押し流していく。再び腰を落とすと、横を向いて寝ているナコルルと向かい合うように、木の床に横たわった。
 シャルロットの息がかかるくらいの距離に巫女の小さな顔がある。

「好き…だ………ナコルル……」

 張りのある胸がその形を変えるほどに強く、淫らに自分の胸への愛撫を続けながら、シャルロットは自然と頭の中に浮かんだ言葉を口に出してみた。
 日本に渡って来てからずっと張り詰めっぱなしだった自分の心がゆっくりと溶け出すように感じられた。
アイヌの巫女であるナコルル。この娘になら自分の弱い一面をさらけ出せるかもしれない。甘えさせてくれるかもしれない。自分の勝手な思い込みかもしれないが、それだけの包容力を目の前の少女は秘めている気がする。

 そんなことを考えていたら、さらに股間が熱を帯びてきたような感覚があった。ためらうことなく一枚残っていた下半身の着衣に手を掛けると膝の近くまでずり下げる。髪の毛と同じ色の女性の繁みが顔を覗かせるが、まだそんなに濡れている風ではない。

 自分で慰めた経験の少ないシャルロットは、気持ちばかりが先走ってしまう状況に苛立ちを覚え始める。さらなる快感を得ようと直接秘所に指を這わせ、女陰の周りを刺激する。少しずつ身体が昂ぶってくるのを感じるが、目の前の少女がいつ目を覚ますかわからないという焦りからか、思うような快楽を得られない。

 ナコルルはほんの少し触ってあげただけで、はしたない嬌声を上げて感じていたのに…。ついさっき目の前で繰り広げられた光景が思い返された。抱き締めた腕の中で震える白い肢体の感触がよみがえる。
 シャルロットは手を伸ばして掛け布をめくると、ナコルルの腕をそっと引っ張り出して自分の股の間に導いていく。

「………ひあぁっっ!!……あぁ……ぁ………。」

 薄く生え揃った金色の繁みにナコルルの手が軽く触れただけで、腰が震えるほどの甘い刺激の激流に襲われた。他人の指で慰めてもらうことが、こんなに自分の体を敏感にさせるということを初めて知る。
 さっきと同じ場所をなぞっているだけなのに、粘度の高い液体が身体の奥から湧き出して狭間から零れ落ち始めた。しなやかなナコルルの指が、敏感な女芯をかすめる度にシャルロットの身体が小刻みに跳ね上がる。

「ひぐぅっ!」

 全身を熱い衝動が走り抜け、思わず大きな嬌声を上げてしまう。慌ててもう一方の手を胸から離し、曲げた人差し指を口に咥えて声を押し殺そうとする。眉の間にしわを寄せて苦悩の表情を見せるが、そこには明らかに官能の色が浮かんでいる。
 まだ女性の谷間はほとんど閉じたままの状態だったが、縦筋の周りにあふれた愛液がナコルルの指との間に糸を引き、奥の方は充分に潤っていることを感じさせた。

 もう…いい加減目を覚ましてしまったのではないだろうか…。ナコルルの顔に視線を戻すと、再び小さな赤い唇が目に留まった。先ほど頭をよぎった妄想がぼんやりと思い返される。
 気付いた時には、シャルロットの熱い吐息がナコルルの頬にかかっていた。そしてさらに身体を寄せ、目の前に横たわる肢体に覆い被さろうとした瞬間だった。


 …ぬるっとした感触と共にナコルルの指が秘肉を押し分ける感触があった。さらなる快楽を求めて自分の秘所に無理やり押しつけていた巫女の指が、体を近付けた拍子で驚くほど抵抗無く、窪みの中に根元まで埋め込まれる。

「ひっ!……指…奥に…入っちゃ………やぁぁああっっつ!!」

 大切な場所への突然の挿入感に一瞬慌てるが、今までほとんど触れたことの無い場所を刺激されて、身体の奥から急激に快感が湧き起こり、思わず悦びの声を上げてしまう。

「や…だめ…だ…そんなとこ………ふぁ……あぁああっ!!」

 そもそも眠っているナコルルの指が意図的に愛撫を加えているはずはないのだが、シャルロットはナコルルの手首を掴んだまま離さず、自らの下半身を押し付けてより大きな快感を得ようとする。腰が妖しげにくねる度に、溜まっていた蜜液がほとばしってナコルルの指を濡らしていく。

 四つん這いの格好になって上からナコルルの寝顔を覗く。床について体を支えている方の手は女の悦びで震えており、気を抜いたらそのままナコルルの上に突っ伏してしまいそうである。

「ナコルル…ナコルル……」

 かすかな水音が聞こえるほど、大事な場所が潤っていた。愛しい巫女の名前を口にする度に、身体の火照りが急速に増してくる。快楽の頂点が近付いて来たことへの期待感からか、シャルロットの頬は真っ赤に染まり、悲鳴のような呼吸が激しくなる。

「ナ…コ………ひんっ!……も……だめ……あぁぁぁっっっ!!」

 強烈な快感が身体の中心を走り抜け、ナコルルの指をくわえ込んだ女陰が収縮する。波打っていた白いお腹の動きが止まり、背中が反り返って身体を緊張させる。絶頂感が全身を駆け巡り、激しい快感がシャルロットの理性を完全に押し流した。

 ――快楽の波が少しずつ引き始めると、次第に下半身が弛緩して白い太腿がぶるぶると震え出す。

「だめ………出ちゃ………ひぁぁ……」

 愛液とは別の熱い液体が尿道を通り抜け、秘所に押し付けていたままのナコルルの指に細い筋を作る。そのまま伝い落ちた金色の液体が、掛け布の一部を濃く染め上げ始めた。

「(やぁぁ……こんなの……だめ……だ………)

 朦朧とした意識の中から必死に正常な思考を取り戻そうとするシャルロット。ナコルルから身を離し、快楽で痺れた下半身を引きずるようにしながら土間の方へ向かう。はしたなく溢れ出した小水を止めようと股間を手で押さえ込むが、一度開いてしまった門は容易に閉まらず、長い指先から垂れた液体が床板に点々と跡を残す。

「ふぁ……あ……ふ………」

 ようやく土間にたどり着いたシャルロットは、普段の凛々しい姿とはかけ離れた格好で、腰を落としてへたり込んでしまう。
くぐもったような音が大きくなり、お尻の下に急速に熱い水溜りが広がって独特の香りが鼻をつく。

「こんな…ところで…粗相なんて………んぁぁっ!!」

 ひときわ激しくなった小水の放出感で、快楽の残り火が燃え上がってしまう。

 そして、土間の脇にある厠の方から、先ほどナコルルが排泄したものの匂いが漂って来たような気がした。その香りはシャルロットを酔わせ、正常な思考力を奪っていく……。










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