〜Dark side of the moon〜
夜(その2)





 その日の夜。
 パジャマ姿の直子はベッドの上に体を投げ出し、柔らかい枕に顔を埋めるようにして自問していた。
昨晩のことや、今朝の電車内での出来事を思い出してはみたものの、納得するような解答は出てこない。気のせいだったということで済ませてしまいたかったが、あまりにも生々しい感触が自分の身体に記憶として残っている。

たった一つ言えることは、一連の不可解な事件は昨晩のトンネルで事故を起こした時から始まっているということである。普段は幽霊の存在など全く信じていなかったが、そう考え出すと、思わず背中に寒気を感じてしまう。

「(また何か起きたら、誰かに相談しよう…)」

 今度は枕を抱きかかえ、体を横に向けてため息をつく。布団に入って寝なければ、と思いつつも昼間の疲れからか、そのままの姿勢でうとうとし始めてしまった…。


---------------------------------------------------------------


 開いた眼に部屋の天井が映る。

 いつの間にかうたた寝してしまったらしい。母親が電灯を消してくれたのか、部屋の中は暗くなっていた。家の前に立っている街灯のせいで、ブラインドを通して部屋の中も真っ暗闇ではなく、薄ぼんやりと照らされている。

「(…いつの間にか寝ちゃった。今何時頃だろう…)」

 外の暗さからまだ朝では無さそうである。お手洗いに行ってから、もう一度寝ようと体を起こそうとしたとき、異変は起こった。

「(…体が……!?)」

 ベッドの上で真上を向いたまま硬直してしまったかのように体の自由がきかず、指一本すら自分の意思で動かすことができない。必死に腕や足を持ち上げようとするが、神経がどうかしてしまったかのように、力が伝わらない。
 これが俗に言う金縛りというものだろうか。直子の周囲にも、金縛りにかかってしまったと言っては大げさに話す女の子たちがいたが、いつもは笑って冗談半分に聞いていたものである。
まだ夢の中にいるのではないかと思い、頭の中をはっきりさせようと、わずかに動くまぶたを何度も開閉させるが、状況は変わらなかった。

 焦る気持ちを落ち着かせようと、目を閉じてゆっくり呼吸を繰り返す。次に目を開けたときには元通りになっているかもしれないと一生懸命前向きに考えていたその時、足元から寒気が上ってくるのを感じた。

「(誰………なの?)」

 何故かはわからないが、誰かがベッドの脇、直子の足元の辺りにたたずんでいると直感的に意識した。

頭を上げられないので足元の方を視界に入れることができないものの、確かに何者かがこちらを向いて音も無く立っている…ような気がする。思わず声を上げようとするが、息はできるのに声帯が全く反応しない。

 布団の沈む感触から、その”何か”がベッドの上に体重をかけているのが感じられた。移動してきたのだろうか…。何が起きているのかほとんど把握できない直子はパニック寸前であった。

 そして次の瞬間、太腿に冷やりとした直接的な圧力が加えられる。

「(手……?)」

 人間の、手。

 その大きさから、子供か小柄な女性の手のひらが当てられているように感じた。太腿の上を這い回るように動き出すと、細かい指の動きがパジャマ越しに伝わってくる。

「(やだ……やだぁぁぁ!)

 言いようもない気持ち悪さが、触られているところを中心に全身を駆け巡る。そんな直子の動揺を見透かしたように、手の動きはさらに大胆になっていく。くすぐるような繊細なタッチで直子の膝頭から股間の手前のあたりまで何度か往復した後、今度は両手で脚を少しだけ左右に広げる。そして何者かの膝が股の間に割り込んできたのを感じた。

「(やっぱり…誰か…いる……!)」

 必死に自分の足元の方に顔を向けようとするが、やはり体は硬直したままで首が持ち上がらない。目だけはかろうじて動くため視線を下に向けてみるが、視界には普段の部屋の景色以外何も入らない。

「ふふっ……」

 その時、直子の耳に少女の忍び笑いのような声が届いた…ような気がした。

「(女の……子?)」

 予想外の事態に驚く直子。そんな彼女の動揺をよそに、足元の人物は次の行動に移る。両手で直子の太腿のあたりのパジャマを掴むと、そのままゆっくりと引きずりおろし始める。

「(やだやだっ…やめてぇっ!!)」

 仰向けにされたまま寝巻を無理やり引っ張られたため、下着まで一緒に引きずられて脱げてしまいそうになり、彼女の頭は真っ白になる。しかし、何とかお尻のふくらみに引っかかって下着だけは止まり、大切な場所がさらされる事態はまぬがれた。
 パジャマを膝の辺りまで下げると、再び”手”が太腿をなぞりあげながらパンティの方に戻ってくる。そして恥丘の両サイドからお尻の方にかけて、弧を描くように何度も繊細なタッチで撫で回す。

「(嫌…いやぁぁ……)」

 おそらく少女と思われる見知らぬ人物に、自分の体を好きなようにいじられる事態に嫌悪感ばかりが先に立っていたが、一番恥ずかしい場所には触れないまま、焦らすような愛撫を続けられたことで、直子の神経は敏感に、より研ぎ澄まされていく。
 5分ほど続いた愛撫の後、少女の手がパンティの上から直子の秘所を軽く弾いた時には、いつの間にか奥に溜まっていた愛液が、一気に溢れ出すまでになっていた。

「(ひぁあっ!……ぁぁ……)」

 硬直したままの身体の芯を、はっきりとした快感が走り抜ける。声が自由になっていたら、嬌声が部屋に響き渡っていたはずである。軽く触れられただけなのに信じられないような反応を示す自分の身体にとまどう直子。

 少女の手はさらに下着の奥へと伸び、愛液を湧き出し続ける直子の内部へと指を進める。

「(んぁぁ……あ、あ、やめっ、あぁっ………!)」

 嬌声の代わりに熱い吐息が洩れる。

「(やめて、やめて、やめてぇ………)」

 頭の中で必死に拒否の言葉を連呼する。夢だったら早く覚めて欲しいと念じるが、今まで経験したことのないような快感がはっきりと身体に刻み込まれていく。次第に意識がもやがかかったようにぼんやりとしてきて、自分がどのような状況に置かれているのかすらわからなくなるほど正常な思考ができなくなってくる。

 そんな直子の耳に再び少女の声が届く。

「我慢することないよ……」
「ほら、自分でも胸、触ってみて…」

 突然拘束を解かれたように自由になる両腕。しかし直子は愛撫を続ける少女の手をどけようとすることもなく、素直にその言葉に従う。
 パジャマの胸元のボタンを一つ外すと、仰向けになっているために少し平らになっている2つのふくらみにそれぞれ手を当てて、円を描くようにゆっくりと動かし始める。そしてしばらく単調な動きを続けた後、胸の先端、硬く尖りだした箇所を指でつまむようにして転がし始める。

「あぁぁっ!!!」

 いつの間にか声も、そして全身も自由に動くようになっていた。胸から頭の方へに甘い快感が走り、その刺激が少女の手でいじられている秘所の感度を増幅させる。

 直子が自分の胸への愛撫を始めると同時に、少女の指は少しずつ陰部を押し広げて行き、最も敏感な部分を露出させた。まだ男性経験のない直子の若芽は、剥き出しにされながらも綺麗な色を見せていた。しかし少女の指が触るか触らないかというような微妙なタッチでその先端を優しく撫でると、最大級の刺激を感じた直子の身体が跳ね上がる。

「んぁっ、あ、あ、ひぁぁっっっ!!!」

 今度こそ部屋の中に可愛らしい叫び声が響き渡る。口の端から涎がこぼれ、目は焦点を失っている。直子の身体の奥からざわめくような衝動が溢れ出し、柔肉は何かを求めるように収縮を繰り返す。
 パンティを脱がさないまま的確に直子の性感帯を捉えてきた指は、今度は女芯には直接触れずにその周囲をかき混ぜるように、先ほどよりも強い刺激を送り込む。

「や、ぁ、そこ…だめぇぇっ!!」

 連続して襲ってくる甘い刺激の狭間に、突然微かな尿意が割り込んでくる。一度意識し始めると、無視しようとしてもその感覚は次第に大きくなり、直子を悩ませ始める。

「だめっ…止めて、とめ…てぇ……やぁぁっ」

 部屋の温度が急に下がったような錯覚に襲われる。下着をずらされ、大切な部分が外気にさらされていることをはっきりと再認識させられる。それでも女としての身体の反応は止めようがなく、尿意と快楽が入り交ざったような感覚が彼女を支配しつつあった。

 膨れ上がる快感を押さえつける術も無く、ただ身悶える直子。自分の胸に当てた両手の指先からは、よりいっそう強い刺激が桃色の蕾に送り込まれる。
 そして再び直子の若芽を少女の指が弾いた瞬間、もう快楽の濁流を止めることはできなかった。直子の腰がうねり、媚肉が痙攣するようにざわめく。

「あ…あぁっ……い…くぅぅっっ!!」

 身悶えしながら、両脚を突っ張らせるようにして絶頂を迎える。

 そして達した余韻に浸る間もなく、弛緩した下半身に熱い液体が広がる感触が伝わる。いつの間にか少女の指は直子の狭間から消えており、元に戻ったパンティの底が楕円状に黄色く染まったかと思うと、その中心から淡い色の小水が外に湧き出してくる。勢いはさほどでもないため、大半はお尻の方に流れ落ち、そのまま布団のくぼんだ所に水溜りを作る。

 自分が粗相をしてしまったことを意識していないのか、直子は心地よい解放感に身を任せながら再び深い眠りに落ちていった…。


---------------------------------------------------------------


 ブラインド越しの光がまぶしい。もう陽が高くのぼっているらしい。いつも休日はゆっくり起きることにしている直子はゆっくりと目を開けた。

「そうだ…今日は友達と出かける予定だったっけ。起きなきゃ…」

 悪い夢を見ていたような気がする。寝覚めが悪いのは寝過ぎたせいであろうか…。

 体を起こしてベッドから降りようと下半身をひねった時、異変に気付く。

「やだ……なに…これ…??」

 お尻に冷やりとした濡れた感触がある。掛け布団をはらいのけ、おそるおそる膝を立てて自分の股間の辺りを上から覗き込む。

「や、やだ…うそ…」

 ぐっしょりと濡れたパジャマとその下に広がる濃い色の染み。”おねしょ”…という自分にとってはもはや死語のような言葉が頭をよぎる。
 夢の中でしてしまったのだろうか…。自問する直子の脳裏に、少しずつ昨晩の出来事が浮かび上がってくる。

「夢…じゃ…なかった…?」







目次Original Novel次へ