〜巫女譚歌〜
シャルロット<終章>






――指先に温もりを感じた気がした。

 深い眠りから目が覚めたが、頭がひどく重い。熟睡していたと思われるが、寝覚めは悪く、視界もまだぼんやりとしている。

 その時、感覚の鈍った指先に熱い吐息が吹きかけられた気がした。続けて、生暖かく濡れたもので包まれる感触。人肌よりも少しばかり温かく感じた。わずかにざらついた感じから、そこが誰かの口の中ではないかと思われた。
 前の方をぼんやり眺めると、ナコルルと向かい合うようにして、金髪の女性が横たわっていた。

「(シャルロット…さん……?)」

 いつの間にか掛け布から出ていた手首がシャルロットに掴まれていた。指が伸ばされ、口で軽く咥えられている。柔らかい唇に包まれた後、濡れた舌先で指先が舐めまわされる感覚が伝わってくる。先ほど感じた生暖かい感触はこれだったのだろうか。
 愛撫するかのように優しい刺激を伝えてくるシャルロットの舌先が、次第に指の付け根の方へ這って来る。
潔癖な性格のナコルルだが、何故だか、舐められていることへの嫌悪感は全く無かった。まだ頭の中が朦朧としているせいかもしれないが、甘美な感覚が体中に広がってくるのを感じる。

「(何か…変な…気持ち……)」

 何となく、目が覚めたことをシャルロットに気付かれてはいけないような気がした。目を閉じてされるままに身を任せると、感覚の鈍っていた身体が急に敏感になって来たように感じられた。シャルロットの愛撫は手のひらを通って、隣の指へと移っていく。

 彼女が舌を這わせているナコルルの手のひらは、先ほどシャルロット自身の愛液と小水で濡らしてしまった場所である。もっともその時寝ていたナコルルはそんな事情を知る由も無い。

「(体…熱い……)」

 シャルロットの丹念な愛撫を受けて、恥ずかしさが増すと共に全身が熱を帯びてきた。

「(これ以上続いたら…ほんとに…変になっちゃう……かも…)」

 身体の芯まで火照ってきたせいか、目が覚めた直後よりも頭の中がぼぅっとして思考がまとまらない。薄っすらと目を開けてシャルロットの方を再び見るナコルル。その時、初めて目の前の女性が何も身に着けていないことに気付く。

「(シャルロットさん……綺麗……)」

 まるで口付けするかのように、大事そうにナコルルの手を口元に引き寄せているシャルロット。暗い小屋の中で、彼女の白い裸体がたき火に照らされて浮かび上がっていた。
 並んで立つとナコルルが見上げるほど大柄だが、均整のとれたしなやかな肢体。重い甲冑の下にはもっと武骨な身体が隠されているかと思っていたが、美しく繊細な体付きを見て思わず感嘆してしまった。

 出来ることなら、ずっとこうしていたい…。相手の温もりを指先に感じながら、再び深い眠りに落ちていくナコルルだった……。


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「シャルロットさん……?」

 小屋の隙間から入り込んだ朝の冷たい空気が身に染みる。

 まだ痛む身体をゆっくり起こして辺りを見回すが、シャルロットがいる気配がない。慌てて起き上がろうとした時、たき火のそばで乾かしていた自分の巫女装束の上に、書き置きが残されているのに気が付いた。
 手にとった直後、思わず笑みをこぼすナコルル。そこにはお世辞にも上手いとは言えない日本語の文字が並んでいた。以前一緒に旅していた時にお互いの国の文字を教え合ったことはあったが、いつの間に書けるようになったのだろうか…。

 しかし、読み進めていく内に、ナコルルの顔に寂しそうな表情が浮かぶ。書き置きの中には、しばらく出かけてくるとの内容が書かれていた。そして数日内に帰らない場合は、戻らないものと思ってくれ…、と。

 根拠は無いが、何となく、シャルロットは戻ってこないような気がした。また…会えるだろうか……。昨晩のことを思い返しながら、言いようの無い喪失感に胸が締め付けられていた……。










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