〜巫女譚歌〜
シャルロット<1>






 ――高いところを飛んでいるような、落ちているような夢を見ていた。

 はっとして目が覚めたが、すぐには自分が今どこにいるのか把握できなかった。耳をすますと、薪のはぜる音がかすかに聞こえる。
一瞬カムイコタンの住み慣れている小屋の中かと思ったが、視界がはっきりしてくると、ここが見知らぬ場所だということが次第に認識できるようになった。体の上には薄い布のようなものが掛け布団のようにかけられている。

「(ここは…どこ…?)」

 窓や壁のすきまから小屋の中に射し込んでくる光の加減からすると、どうやら夕暮れ時のようであった。辺りを見回すと、あまり人の手が入っていないと見えて、床や壁も古びた感じである。

 そばで火を焚いているというのに、体がひんやりとする。横になったまま目を下の方に落とすと、掛けられている布の上に自分の身体の線がはっきりと浮かび上がっているのが見えた。

「(やだ…もしかして…)」

 おそるおそる布をめくると、直接素肌に冷たい空気が触れる感触があった。どうやら何も着けないまま寝ていたようである。驚いて飛び起きようとするナコルル。しかし、足に力をいれた瞬間、足首からわき腹にかけて猛烈な激痛が走り、体を起こしかけたものの、そのまま床板に突っ伏すようにしてうずくまってしまう。

「何……これ……」

 一瞬呼吸が止まってしまうほどの衝撃が彼女を襲った。何度か大きく息をついて呼吸を整えて痛みに耐えようとする。

 その時、戸板が横にずれて誰かが小屋に入ってくる物音がした。

「―――誰っ!?」

 いち早く気配を感じ、痛みに耐えながら体を起こして鋭く叫ぶナコルル。

「起きてたのか、ナコルル」

 よく通る女性の声が屋内に響いた。少しなまったような、発音の変な日本語である。

「シャルロット…さん?」

 一人の女性が小屋の入り口に立っていた。日本人とは違う金色の髪が夕日に照らされて綺麗に輝いている。均整のとれた女性らしい体つきではあるが、戸口が狭く感じるほど背が高いのは西洋人ならではと言える。

 二人が出会ったのはこれが初めてではない。ナコルルが邪神の気配を追って各地を回っていたとき、同じ目的で一人旅をしていたシャルロットと出会い、わずかの間ではあったが、道中を共にしたことがあった。とかくよそ者に冷たい村人たちと衝突していたシャルロットをナコルルが助けたことがきっかけだったように記憶している。
 旅の途中でシャルロットから西洋の騎士道精神を延々と説かれて少し辟易したものだったが、彼女の誠実で気高い心に触れることができ、少なからず好意を持ったものである。

「もう、起きて大丈夫なのか?」

 そう言いながらシャルロットが近付いてくる。いつも着けている西洋甲冑は外しており、身軽な格好であった。

「あ、あの、ここは…?」

 まだ状況が飲み込めないナコルル。自分が何も身に着けていないことを思い出し、布を胸の上まで手繰り寄せて体を隠す。

「村外れの小屋だ。誰も使ってないらしいから、気にすることはない。」

「…シャルロットさんは何故ここに?」

「相変わらずの一人旅だったのだが…蝦夷にも渡ってみようと思ってな。」

 何故か照れたように語るシャルロット。ナコルルを見つめていた碧眼が落ち着かない感じで左右に動く。

「私が川で水浴びをしていたら、岸辺に倒れているお前を見つけて…」

「そうだったんですか。私、どうして…?」

 次第に今朝の記憶が途切れ途切れではあるが、よみがえってきた。最後に崖から落ちたところまでは覚えているが、その後のことは全く記憶にない。どうやら崖下の川に落ちて流されたところを運良くシャルロットが見つけてくれたということらしい。
妹に良く似た少女との出会い。そして彼女から受けた陵辱の数々。忌まわしい記憶が一度に頭の中を駆け巡り、握り締めた手に力が入る。

「その…お前の服なんだが…そこに洗って干してあるからな。」

 シャルロットが指差した先、焚き火のそばに巫女装束の上下が干してあった。洗ったばかりらしく、まだ水に濡れている。

「ありがとうございます、シャルロットさん」

 礼を言うナコルルだったが、あることに気付いてはっとする。

「(もしかして、私の服、汚れてたんじゃ…)」

 崖から落ちる直前に自分が排泄したもので汚れていたのではないだろうか。そう思って一気に血の気が引くが、シャルロットはそれ以上何も言う様子は無い。ひょっとしたら川を流されているうちに洗い流されたのかもしれないと良い方に考えることにして、とりあえず立ち上がろうとするナコルル。しかし、身を起こそうとした瞬間、再び足首に激痛を感じて思わず悲鳴を上げてしまう。

「大丈夫か?ナコルル」

 心配そうに声をかけて傍らにしゃがみ込むシャルロット。体の上に掛けられている布の下のほうを持ち上げて、足首を押さえていたナコルルの手をそっとどけると、痛むところを確かめるように手で何度か触れた。

「折れてはいないようだな…少し腫れるかもしれないが、とりあえず休んだ方がいい。」

 無言でうなずくナコルル。太腿の辺りまで露になった細く白い脚をそっと引っ込める。同性ではあるが、シャルロットに自分の裸を見られると何故だか恥ずかしい気分になってしまう。少し顔を赤らめて再び礼を言うと、言われた通り体を横たえて休むことにした。


―――夜


 焚き火を挟んだ反対側で、シャルロットが壁にもたれかかったままうとうとし始めている。逆にそれまで寝ていたように見えたナコルルだったが、ある生理的欲求に悩まされて眠ることができなかった。

「(厠に行きたい…)」

 夕方目が覚めたときから、下腹部がひどく張っているような感覚があった。本当はすぐにでも行きたかったが、何となく言い出せずにいたのである。見かけによらず妙に世話好きのシャルロットにそんなことを言えば、厠まで抱えて連れて行ってくれたかもしれないが、やはり恥ずかしさが先に立ってしまい、今まで我慢を続けてきてしまった。
 しかも我慢をするほど、下腹部から湧き起こるうずくような感覚がナコルルを悩ませていた。今朝リムルルにいじられていた時に感じたものと似ているような気がする。

 シャルロットの方を一度見やり、目を閉じているのを確認した後、布を体に巻きつけるようにしながらゆっくりと立ち上がる。そして痛む側の足に力を入れないようにしながら土間に降りた。この時代にしては珍しく、土間の脇に厠はあった。
 中に足を踏み入れようとした瞬間、ナコルルの腹がごろごろと鳴り、鈍い痛みが走る。そして同時にうずくような甘い刺激が菊門を襲った。

「ん……」

 自分の身体の予想外の反応に小さく声を上げてしまう。シャルロットに気付かれたかもしれないと思って後ろを振り返るが、相変わらず同じ姿勢で目を閉じたままであった。少しほっとしたものの、急激に高まってきた排泄感にうながされるように厠に駆け込む。巻き付けていた布を汚さないように横に置くと、全裸のまましゃがみこんだ。地べたの冷たさが素足の裏に感じられる。
少しずつ下腹部の力を抜くと、菊門と尿道口が待っていたかのように開き、身体に溜まっていたものが一気に外に放出され始めた。

…その時、

「やあぁぁっっ!!!!」

 同時に二つの不浄の穴をそれぞれの排泄物が通り過ぎた瞬間、ナコルルの背筋を妖しい感覚が走り抜けた。思わず悲鳴を上げて身悶えしながら腰を浮かす。反射的に下腹部に力が入り、排泄物の流れが一時的に堰き止められてしまう。

「ナコルル!?大丈夫か」

 悲鳴を聞いてシャルロットがこちらに駆け寄って来る音が聞こえた。

「来ないでっ!来ないで下さいっ!」

 慌てて叫んだが時すでに遅く、戸で仕切られていない厠の入り口に駆け込んできたシャルロットと直接向かい合うような状況になってしまった。

「ナコ…ルル…?」

 何があったのか訊ねようとしたものの、全裸の彼女を前にして軽く混乱するシャルロット。
一方、ナコルルは他人に裸を見られたという羞恥心に苛まれながらも、下腹部から全身に広がっていく女の悦びに身体を支配されつつあった。直接触られているわけではないのに、排泄を我慢している後ろの門や女陰が敏感に反応して収縮を繰り返す。
もどかしい快感と羞恥心に耐えられなくなり、両手で女の繁みを隠すように秘所を押さえるが、中腰の姿勢のまま、思わず腰をくねらせてしまう。

「見ないで……シャルロットさん…」

 ナコルルが涙目でシャルロットを見上げた。それと同時に、彼女の膝が小刻みに震え出し、再び下腹部の出口が少しずつ弛緩していく。白く細い指の先から数滴、半透明の液体がこぼれ落ちたかと思うと、次第に勢いを増しながら不規則な方向に小水が辺りに飛び散り始める。
何も着ていないために、金色の液体が尿道口を通過する際に出る、くぐもったような音が厠の中にはっきりと響き、ナコルルの羞恥心を一層高める。

「ひっ…いやっっ…!やだぁっ!」

 入り口で立ちすくしている金髪の女性の目から自分の裸体を少しでも隠そうと、その場でしゃがみ込もうとした時、ナコルルの口から甲高い悲鳴が上がった。そして片方の手を素早く後ろに回してお尻の狭間に挿し入れようとする。おそらく菊門の辺りを押さえようとしたのだろうが、それより一足早く後ろのすぼまりが急速に広がり、先ほど出しかけていた内容物が一気に外に放出され始めた。

「……!!あ…、ぁっ…くふぅんっ!」

 今朝出したような水様状ではなく、固形を保ったままの茶色い塊がナコルルの足元に落ちた。硬い便と腸の粘膜が擦れ合う刺激が、そのまま頭が真っ白になるほどの快感となって襲い、悦びにも似た嬌声を彼女に上げさせる。おそらくはリムルルに塗り込まれた薬草の影響が残っていたのだろうが、今のナコルルにそのことを冷静に思い返すことができるほどの判断力は残っておらず、ただ自分の身体の信じられない反応に困惑するばかりであった。

「ひ……やぁ…きゃふうっっ!!!…あぁぅ…ひんっ!」

 ナコルルとシャルロットの視線が、弛緩し切った二つの不浄の穴からひたすら流れ落ちるものに注がれる。もっとも、涙が溢れ続けるナコルルの目には何も映っていなかったかもしれない。異様な昂ぶりを抑える術もわからず、ただ細身の肢体を震わせながら、最後の一滴がこぼれ落ちるまで嬌声を上げ続けてしまう。

 それまで放心状態にあったナコルルが、自分が大変な痴態を目の前の女性に晒していることを再認識できるようになるまでにはしばらくの時間を要した。
相変わらず中腰の姿勢のまま、涎と涙で濡れた顔をおそるおそる上げると、シャルロットの澄んだ色の瞳と目が合った。

「あ…あぁ………」

 何か言わなければと思うが、言葉にならない。ふわっと身体が浮くような感覚に襲われ、ぼんやりと意識が遠のきかける。前のめりに倒れかけたナコルルの身体を受け止めたのは、素早く駆け寄ったシャルロットであった。

「ナコルル、大丈夫か?」

 正面から抱き合うように密着した二人。その瞬間、再び激しい刺激がナコルルを襲い、朦朧とした意識の中から現実へと引き戻される。いつの間にか硬く尖り出していたナコルルの胸の先端が、シャルロットが着ていた粗い繊維の服と擦れ合い、脳天まで一気に突き抜けるほどの甘美な刺激を生み出す。

「ゃ…だめ…だめぇっっ!!」

 小水とは別の粘度の高い液体で潤っていた秘所が収縮を繰り返し、自分の身体が情けないほどに快楽に溺れていたことを自覚する。手足の先まで痺れるような快感が伝わっていき、シャルロットの腕の中で身をくねらせるようにしながら熱い吐息をつくナコルル。

「ナコ…ルル…」

 普段は清楚な雰囲気の巫女である少女が、あられもない姿を晒している。西洋人と比べればとても華奢な身体を抱きしめながら、シャルロットもある欲求に駆り立てられていた。

 彼女がわざわざ蝦夷まで来たのも、旅の途中で別れたナコルルにもう一度会えるかもしれないと思ったからである。自分に同性愛の気があるなどと思ったことは無いが、ひょっとしたらナコルルに友情以上の何かを抱いているのかもしれない。
そんなことを冷静に考えていたわけではないが、気付いた時にはナコルルの唇を塞ぐように口付けを交わしてしまっていた。

 それに応じるようにナコルルもシャルロットの身体に腕を回して強く抱きしめた。より一層深く重なり合ったところから、溜まっていた唾液がナコルルの喉元の方へ伝い落ちる。そしてシャルロットの長い指が太腿の間に伸び、遠慮がちに下腹部の盛り上がったところを目指してなぞり上げた。

「んん……ん……ふぁ…」

 艶やかささえ感じさせるような悦びの声を喉から漏らすナコルル。断続的に身体が跳ねるように痙攣し、それに合わせて背中に回した腕に力が込められる。
お互いの体を密着させているために、手探りでの愛撫を続けていたシャルロットだったが、女の繁みの中から一番敏感な突起を何とか探り当てる。一瞬ためらったものの、できるだけ丁寧に、そっと小刻みな振動を指の腹で送り込んでやる。

「ひ……や…あぁ…ああぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 しかしそれに対する反応はシャルロットの予想をはるかに超えたものであった。顔を離し、仰け反るようにして大きな嬌声を上げたナコルル。先ほど粗相していた最中にほとんど限界近くまで昂ぶっていた身体は、女芯をほんの少し触られただけで、あっけなく達してしまう。

 シャルロットに寄りかかるようにして脱力したナコルルの身体の重みが感じられる。その後、まるで小さな女の子のように泣きじゃくり出したナコルルを見て罪悪感を感じながらも、優しくなだめるように細い肢体を抱きしめ続けていた…。


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「そう…だったのか…」

 シャルロットの目に、桶に汲んだ湯で湯浴みをしながら身体の汚れを落としているナコルルの背中が映った。きめ細やかな白い肌は日本女性ならではだな…と少しうらやましく思う。

「妹に良く似た人物か…」

 今朝の出来事をナコルルから語られ、考え込むシャルロット。話がところどころ飛んでいるように感じたが、きっと話したくないこともあったのだろうと思い、細かく追及するのはやめることにした。

「実は私も…そんな話を聞いたことがある。お前と同じくアンブロジアを追っている者たちからな。」

 ナコルルがシャルロットの言葉に驚いて振り返る。

「容姿は自分とそっくりらしいのだが、その精神…性格は全く違うらしい。それが邪神の仕業なのかはわからないが、この世界に何か異変が起きているということだろう。」

「そんなことが…」

 深刻な顔で考え込むナコルル。先ほどまで痴態を見せていた女性と同一人物とは思えない。アイヌの巫女としての顔である。


「ところで、ナコルル…」

 少し雰囲気を変えて、明るい調子で語りかけるシャルロット。

「何ですか?」

「日本の女性というのは…下着というか…服の下には何も着用しないのか?」

 何を言われているのか最初はわからなかったが、今朝自分の小屋を飛び出すときに、下半身に何も着けないままであったことを思い出して真っ赤になってしまう。

「ち、違いますっ!その…普段は…腰巻を着けて…いるんです…」

 消え入りそうな声で反論するナコルルであった…。







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