直子は小学生時代の卒業アルバムをめくっていた。 自分の昔の記憶の中で、何か忘れていることがある気がする…。 小さい頃遊びに行った例のトンネル、そこを訪れた時の千奈美の不可解な発言。”3人”って誰のことだろう…? 千奈美も直子が覚えていないことに驚いていたようだった。 そして夢の中で出会った”少女”…。 ふと、集合写真に写る一人の女の子に目が留まった。見覚えがあるのに、名前が思い出せない。当時、同級生の女の子は皆同じ公立の中学校に進学したはずなのに、その子だけ制服を着ているイメージが思い浮かばない。 「この子と……何か……」 そういえば、一緒に何度か遊んだ記憶がある…。そして、何か約束していたような…。 少女の顔に暗いトンネルのイメージが重なり、封じ込めていた記憶がぼんやりよみがえってきた。そして、同時に身体の底から悪寒がこみ上げてくる。 「そうだ…この子はもう………」 …その時、手元に置いてあった携帯電話の着信音が鳴り響いた。 「きゃっ!」 静けさを突然切り裂いた音に驚く直子。 「千奈美……」 開いた画面には、親友の名前が表示されていた。少し迷った後、意を決して通話ボタンを押す。 「もしもし、直子?…大丈夫?」 携帯を耳に当てると同時に、千奈美の元気な声がスピーカーから響いてきた。トンネルから出てきた後の何かに取り憑かれたような雰囲気は消え失せている。いつもの千奈美だった。 「千奈美?…千奈美こそ、大丈夫なの?」 直子は安堵のため息をついて親友に呼びかけた。 「私は大丈夫…って言いたいところだけど、何故か今日の記憶が曖昧なんだよね。 気がついたら、ドラッグストアの駐車場に立ってたし…」 すると、直子を介抱して自宅まで連れ帰ってくれたのは、やはり千奈美だったのだろう。 「千奈美…私………」 「いいよ、気にしないで。貧血か何かで倒れたんでしょ。 私も免許持ってたから良かったよ。」 少し慌てた様子の千奈美。無理もない。気がついたら汚物まみれの親友が目の前に倒れていたのだから…。細部に渡って話したくはないだろう。 「ねぇ、千奈美。私、ちょっと思い出したんだけど…」 気を遣って直子の方から話題を変えた。先ほど思い出したことを千奈美に確認してみたかったこともある。 「そう…思い出したんだ……」 しかし、まだ何も話していないのに、千奈美が納得したような口調で答えた。 「千奈美……?」 眉をひそめて問いかける直子の耳に、忍び笑いのような声が微かに聞こえた。その声は次第に大きくなり、はっきりとした笑い声となって響き渡った。 「何なの…?どうしたの……ねぇ?」 電話を通した声にしては、やけに明瞭に聞こえる気がした。そして携帯を耳から離してみた瞬間、直子の顔から血の気が引く。 笑い声は、電話を通じてだけではなく、直子がいる部屋の外、しかもドアのすぐ向こう側から響いていたのだった。 「ぁ……ぁ………」 直子の瞳が恐怖で見開かれ、視線は部屋の入り口の方に釘付けとなる。そして、ドアノブがゆっくりと回り出した…。 |
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