〜アプローチ〜







「降りるよ」
「え……? 待って!」
 目的地を予め教えてくれれば良いのに、と思いながら葵は電車から降りた。既にホームの階段を上り始めていた響を慌てて追う。ポニーテールを揺らしながら目の前を歩く少女は振り返って悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「ごめん、私もぼーっとしてた」
 そう言って再び階段を小走りに駆け上がっていく。短い丈のダッフルコートの裾から覗くショートパンツのお尻のラインが強調され、躍動感の中に微かな色っぽさが漂う。

(これってデートなのかな)
 朝、家を出る前から何度も自問してみたが、答えは見つからない。今日の予定について響から電話があったのは先週の金曜日の夜だった。
『週末空いてる? 買い物に付き合ってくれない?』
 手短に用件だけ伝えると響は通話を切った。彼女から告白めいたことを言われて以来初めてのアプローチだっただけに、携帯電話の画面に表示された名前を見た時は飛び上がるほど驚いたが、電話口での響の素っ気なさに拍子抜けしてしまった。

(結局ちゃんと返事してないし、どう思っているのかな?)
 先日公園で響から告白された時、全く予期していなかった言葉を聞いた葵の頭はショートしたかのように思考を止めてしまった。漫画のように口をパクパクさせて戸惑う葵を見て、響が申し訳なさそうな表情を浮かべていたことは覚えている。断られたと思っているだろうか?
(でも……)
 だからと言って今さらその話を蒸し返す勇気もないし、響の想いにどう応えるべきか、解答を持っているわけでもない。
(思い付きで言っただけ……かもしれないし)
 少なくとも買い物に誘われたということは、彼女の機嫌を著しく損ねたわけではないのだろう。結論は先送りにして、とりあえず今日は大人しく付き合おうと葵は心に決めた。

「ここだよ」
 駅から五分くらい歩いただろうか。響は真正面の店のショーウィンドウを指差した。そこにはロング丈の黒地のワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせた……いわゆるメイド服が飾ってあった。
「ここって……」
「見ての通りコスプレのお店だけど?」
「ちょ……ちょっと待って!」
 入り口のドアに手を掛けようとしていた響の腕を慌てて掴んだ。
「今日は女の子の服は着ないからね。男の格好してきたし」
「え?」
 響は面食らったような表情で葵を見つめ、すぐにくすくすと笑いだした。
「ああ、今日はそういうつもりで来たわけじゃないから」
 そう言うと響は視線を葵の服装に移し、今度は少し含みのある笑みを浮かべた。今日の葵は当然女装などしておらず、黒地のフリースとジーパンを身に着け、薄手のコートを羽織っている。シンプルな出で立ちは少年の端正な顔立ちを引き立たせ、知らない人が見れば性別を勘違いしそうな……ボーイッシュな女の子に見えるかもしれない。
「行こう」
 響は自然な仕草で葵の腕を引き寄せた。急に身体が接近したことにどぎまぎしながら、葵は自分より五センチくらい高い位置にある少女の顔をこっそり見上げた。その頬は少し紅潮しているように見えた……。

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 コスプレ用と思われる小物を何点か購入した響が目の前のレジで会計をしている。視線を上に移すと、コスプレ衣装のサンプルが壁にディスプレイされていた。メイド服のようだが、店頭で見たものとは違い、スカートが膝上丈になっている。エプロンのフリルも丁寧に縫い付けられていて、高級感がある。
(可愛いな)
 一瞬見とれてしまった後で、ふと自己嫌悪に似た感情が湧き上がってきた。自分が着てみたらどんな感じだろう、とか無意識の内に考えていなかっただろうか? 女装趣味がすっかり身に付いてしまったと思うとぞっとする。
(違う違う)
 良く出来たものを見てただ感心しただけだ、と自らに言い聞かせた。
「どうしたの?」
 いつの間に会計が終わったのか、響がこちらを向いて立っていた。葵の視線をたどり、彼女も壁のディスプレイを見上げた。
「お、可愛いよね。興味ある?」
「あ、いや……」
 心の動きを全て見透かされているような気がして、答えに詰まってしまった。
「ああいうの、買って着たりしないの?」
 動揺を押し隠しながら葵は尋ねた。
「買ったことないよ。良くできてるとは思うけど」
 響は素っ気なく答えると葵の方に視線を戻した。あまり興味はないようだ。
「そうなの?」
「基本自作派だし。藤崎だってそうでしょ?」
「えと……自作って?」
 何から尋ねれば良いのかわからず戸惑う葵を見て、響は芝居がかった調子で言った。
「君はコスプレイヤーとして衣装への愛が足りない」
「愛?」
「ちょっと案内してあげる」
 
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(綾香さんも自分で衣装を作ってたんだ……)
 葵は電車のシートに背中を預け、単調な走行音と車内のざわめきを聞きながら考えていた。あの後、隣駅まで電車で移動して何軒か生地屋さんを回り、衣装制作の手順を一から説明してもらった。一概には言えないが、手間のかかるものは数週間くらい時間を費やすこともあると響は言っていた。
 そういえば綾香の部屋にも型紙らしきものが置いてあったし、新しい衣装を作る際には身体の寸法をとってもらった記憶がある。綾香の苦労も知らず、ただ受け取ったものを着ていただけなんて、今さらではあるが申し訳ない気分で胸が痛む。
(今度衣装もらった時は、何か言わなくちゃ)
 葵は隣家に住む年上の少女の顔を思い浮かべながら窓の外を見やった。ちょうど景色が住宅街から駅のホームへと切り替わり、乗車を待つ人々の姿が視界に入ってきた。休日ではあったが、レジャーや買い物帰りの乗客たちで一気に混み合いそうな雰囲気だった。
「席、代わる?」
 少し腰を浮かせながら、正面に立っている響に声を掛けた。
「いいよ。そのかわり荷物持ってて」
 額を人差し指で軽く小突かれ、葵は再び腰を下ろした。今日買った物が詰まっている紙袋を身体の近くへ引き寄せる。中身が崩れたりしていないか確認しようとした時、ふと響の太腿の辺りに視線が引き寄せられた。身体にフィットした黒タイツが、未成熟ではあるが適度に肉感のある太腿の輪郭を浮かび上がらせている。綾香のスタイルの良さは衆目の一致するところであるが、目の前の少女からもまた違ったタイプの色香を感じた気がして少しだけ胸が高鳴った。
「きゃっ」
 突然電車が揺れ、乗客が一斉に雪崩を打った。響も背中を押されて葵の方へ倒れ込んできた。お互いの膝がぶつかり、顔が接近する。
「ごめん、大丈夫?」
 響は咄嗟につり革をつかんで衝突を回避していた。
「……うん」
 脚の間に割り込んできた少女の太腿に再び視線を吸い寄せられたまま、葵は答えた。
「ずっと見てたでしょ、私の脚」
 そんな少年の様子を見て、響がからかうように耳元で囁いた。
「違……!?」
「冗談、冗談」
 頬を紅潮させて反論する葵を手で制すると響は体勢を立て直し、携帯電話を取り出してメールを打ち始めた。
 短い間とはいえ彼女の身体をじっと見つめていたことは確かである。葵は後ろめたい気持ちを抱えながら早く下車駅に着いて欲しいと祈っていた……。

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「うちに寄ってかない?」
 電車を先に降りた響が振り返って言った。彼女の家はこの駅から歩いてすぐのところにあるらしい。葵の家の最寄りは、ここからさらに乗り換えてひとつ先の駅である。
「でも、もう遅いし……」
 もう夜の七時過ぎだ。日はとうに暮れ、吐く息が真っ白に見えるほど冷え込んでいる。響が先ほどの一件で機嫌を損ねているのではないかと心配していたが、どうやらそんな様子はなさそうである。葵は安堵のため息をつきながら、手を左右に振って遠慮の意思を伝えた。
「さっきお母さんにメールしたら、是非いらっしゃいって」
「え、でも……」
 困惑する葵の背中をぽんと叩くと、響は嬉しそうな表情を浮かべて歩きだした……

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(いきなり男の子が遊びに来たりして、驚かないのかな)
 葵の懸念は響の母の第一声によって吹き飛ばされた。
「あら、可愛い子ね。同じクラス?」
 響が通っているのは女子校である。勘違いに気付いた葵はすぐに訂正しようと口を開きかけたが、口元に人差し指を当てて悪戯っぽい笑みを浮かべる響の姿が目に入った。
(面倒だからそのままにしておいて)
 そう言いたげな彼女の表情を見て、葵はあきらめて小さくため息を漏らした。
「さぁ座って。お茶をどうぞ」
 響から連絡を受けて準備していたのか、リビングのテーブルの上にはカップが並べられていた。ポットから紅茶を注ぎながら、響の母はにこやかな表情を葵に向けた。
「この子、うちに友達連れてきたの初めてなのよ」
「ねぇ、私の部屋に行こう」
 響が少し苛立った口調で母親の会話を遮った。
「お茶くらい飲んでいったら?」
 少し険悪な雰囲気が漂い、二人の間で板挟みになる葵。熱い紅茶を急いで冷ましながら飲み干すと、響に手を引かれるままリビングを後にした。

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「クッション持ってくるから、とりあえずベッドに座ってて」
 そう言い残すと響は部屋から出て行った。一人残された葵はぐるっと周囲を見回した。室内はきれいに整頓されていて、清潔感がある。本棚には漫画や小説の他、服飾の本なども並べられている。綺麗にシーツが引かれたベッドに座るのはさすがに気が引けたので、葵は床に腰を下ろした。
(んっ……)
 下腹部が圧迫された途端に刺すような尿意が下腹部から沸き起こった。帰ってくる途中にも何度かトイレに行こうと思ったのだが、大きな買い物袋を抱えていたせいで後回しにしていた。先ほど飲んだ紅茶の影響もあるかもしれない。
(後でお手洗い借りよう)
 幼馴染みの綾香は別として、女の子の家にお邪魔するなんて初めての経験である。居心地が悪いわけではないが、さすがに緊張しっ放しである。もし響を葵の家に連れて行ったら両親はどんな顔をするだろうか。葵が女の子と付き合っていることが知れたら、どんな反応を見せるだろうか。
(そもそも僕、響さんと正式に付き合っているわけじゃないし……)
「何ぼーっとしてるの? 顔赤いよ?」
「わっ!」
 いつの間にか戻ってきた響が葵の顔を覗き込んでいた。
「女の子の部屋でエッチなことを考えるのは良くないと思うよ」
「違うよっ」
 響は冗談で言っているのだろうが、全くの的外れというわけでもない。葵は動揺を悟られないよう、わざとふくれっ面を作ってそっぽを向いた。
「ごめんね、怒った?」
 響がにじり寄ってきて葵の太腿の上に手を置いた。脚の付け根のところに指先が触れてこそばゆい。お互いの吐息がかかる距離まで顔が接近した。
(んっ……)
 不意に腰の奥で走った甘い刺激が、先ほどから葵を悩ませている尿意の中に割り込んできた。同時に下着の奥で熱を帯びた器官がぴくっと震えた。咄嗟に響の手首を掴んで押さえ付けたが、邪険に振り払ったりしたら葵の身体が恥ずかしい反応を示していることを見透かされてしまう気がして、身をこわばらせた。
「……んんっ」
 次の瞬間、視界一杯に少女の顔が広がり、唇に柔らかい感触が伝わった。そして体重を預けてきた響にそのまま床に押し倒された。お互いの脚が絡みあい、下半身が密着する。響は一旦顔を離すと潤んだ瞳で葵を見つめ、思いつめたような表情を浮かべるとついばむように優しく唇を押し付けてきた。
(響……さん!?)
 少女の鼻息が頬をくすぐった。触れ合う頬が熱っぽく感じられる。
「あっ……」
 響が身体をずらした拍子に彼女の太腿が両脚の間に割り込んできて、股間にぎゅっと押し当てられた。これ以上ないほど激しく高鳴っていた胸の鼓動に連動して、男の子の敏感な場所がびくっと震えた。先端から何かが零れ落ちて下着に染み込んだ感覚に背筋が凍りつく。
(だめっ!)
 響の腰に手を当てて押し返そうと試みる。一瞬引き離すことに成功したが、少女が身を捩った途端に手が滑り、体重がずしんと一点に集中した。
「ひっ!」
 尿意による下腹部の圧迫感と放出の欲求が、そのまま性的な快楽に変質し、葵を絶望の淵へ追い詰めていく。響が身じろぐ度に圧力がかかるポイントが少しずつずれ、思わず腰が跳ね上がるほどの快感が生み出された。腰の奥が小刻みに震え、射精の衝動がこみ上げてくる。
「響ちゃん、だめっ!」
 歯を食いしばって耐えようとしたが、下着の奥で性器が激しく脈動を始め、視界の中で稲妻がひらめいた。同時に尿道を大量の精液が通り抜けていく。
「あっ! あぁああっ!」
 苦痛混じりの悲鳴に驚いた響は、慌てて身体を離すと少年の顔を見つめた。

「響? どうしたの?」
「何でもないよ! 大丈夫!」
 葵の声は階下まで響いていたのだろう。母親が階段を登ってくる足音が聞こえ、響はドアに慌てて駆け寄って何事もないことをアピールした。
「ふぁ……ぁ……」
 喉の奥から泣くような声を出して身悶える葵。腰の奥から下着の中にかけて、熱い感覚がどんどん広がっていく。だらしなく緩んだ口元から涎が零れ落ちた。
「はぁ……ぁ……」
 凄まじい快楽の波が過ぎ去った後、葵は止めていた息を一気に吐き出した。華奢な身体は時折絶頂の余韻に震えている。どっと噴き出した汗の雫が頬を伝った。
(あ……どうしよう)
 絶頂と共に突っ張った両脚が小刻みに震え始めた。溜まっていた精を全て放ち切った
下腹部の奥で、再び尿意が急速に高まってきた。
(漏れちゃうっ)
 葵は起き上がってに四つん這いになると、右手で股間を押さえ付けた。ジーンズ生地からじわっと熱い精液が滲み出してくる。下腹部を少し圧迫しただけで、爆発的に尿意が高まった。
「どうしたの?」
 響が心配そうな表情を浮かべて戻ってきた。
「おしっこ……」
「トイレ? 連れてって上げるね」
「もう、だめ、動けない……」
 限界近くまで高まった排泄欲求を少しでも軽減しなければ、すぐにでも決壊しそうである。下腹部を締め付ける着衣を緩めたいが、手が震えてうまくいかない。
「ズボン脱ぎたいの? ちょっと待って」
「や、違うっ やめてっ……」
 葵の苦悩に気付いた響は手際よくホックを外すと、ジーパンを引き下げた。下着も一緒に巻き込まれ、ほんのりと膨らんだお尻と共に、まだ少し硬さを残した性器があらわになった。
「いやぁっ!」
 羞恥心を押し退けて、圧倒的な尿意が少年の身体を支配する。太腿が痙攣し、その振動がまた刺激となって貯水槽を揺らす。
(もう、だめ……)
 出口で濁流が渦巻き、膀胱に耐え難い痛みをもたらした。
(少しだけ漏らしたら、……楽になるかも)
 葵の思考は錯乱し、括約筋をコントロールする脳からの指令が一瞬途絶えた。その隙を見逃さず、しゃぁっと音を立てて少量のおしっこが溢れ出し、床に叩きつけられた。
「……漏れちゃう!」
aoi  それが呼び水となったのか、少しだけ痛みが引いた代わりに、一気に堤防が崩れ出す感覚があった。
「いいよ、漏らして」
 響の息遣いが背後で聞こえた。彼女の姿は視界にないが、露出したお尻と性器をじっと見られていると思うと背筋がぞくぞくと粟立つ。
「あっ!」
 恥ずかしい場所に後ろから手が添えられた。幼児のように扱われる行為が身体の緊張を解いたのか、大量の小水が堰を切ったように迸った。響の手のひらで受け止められたおしっこは指の隙間から滴り落ち、床で派手な音と共に弾けて飛沫を撒き散らした。フローリングの床にできた水溜りがどんどん広がっていく。

「ひくっ……ぇっ……」
 ひどい屈辱感に襲われ、すすり泣く葵。自分では気付いていなかったが、お漏らしを続けるその身体は妖しい快楽で小刻みに震え続けていた……。







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