〜綾香の秘め事〜







「うん……まぁ、こんなものかしらね」

 そう言って綾香は満足げにうなずいた。彼女が見つめる先には、少々変わったデザインのセーラー服を着た子が1人。頬を薄っすらと赤らめて、少しうつむき加減の姿勢で立っている。

「試着してみて何か感想はある?葵?」
「そんなこと言われても、良くわからないよ」
 
 ここは葵の自室である。シンプルな部屋の中は綺麗に片付いていて、持ち主の几帳面な性格を良く表している。同世代の男の子たちが好むような漫画やゲームといった類のものは見当たらない。

「もう少しスカートの裾を上げてもいいかしら?」

 今日、この部屋を訪れている理由は葵が着ている洋服にある。普段は綾香のお古や、お店で購入した女の子用の服を葵に着せているのだが、今回は綾香が自らの手で、しかも一ヶ月がかりで裁縫して作り上げた力作だ。

「絶対短すぎだよ……」
「たかだか膝上10センチくらいじゃない。綺麗な脚なんだから、もっと見せたって良いのよ」
「でも……」

 葵が着ているのは、ある格闘ゲームの女性キャラが着ているコスチュームを模したものだ。元ネタを知っておいた方が良いだろうと、綾香はゲーム機まで持ってきて説明したのだが、葵はどうも良く分かっていないようである。この可愛らしい男の子は、テレビゲームやアニメといったものに対してあまり興味がわかないらしい。綾香がその手のジャンルに見識が深いということを聞かされた時、葵は随分と驚いていた。

「ひゃっ!?」

 そんなことをぼんやりと思い返していた時、小さな悲鳴が耳に飛び込んできた。スカートの長さを調整するつもりが、いつの間にか葵のお尻に手が触れていたようだ。

「ごめんね、考え事してたの。腰回りはきつくない?」

 着丈や袖丈のチェックを始めた綾香の手が、葵の腰やわき腹に優しく触れる。

「きつくないよ。大丈夫だけど……」
「何?くすぐったいの?」

 綾香が悪戯っぽい笑みを浮かべてわき腹を指でつつくと、葵は身を捩らせて敏感な反応を示した。

「やめてよ、綾香さんっ」

 葵が腰を引いた拍子に、短いプリーツスカートが一瞬ひるがえった。慌てて裾を押さえる葵。綾香の手が触れる度に少年の胸は高鳴り、震えが全身に伝わっていく。

「じっとしていなさい、葵」

 最近葵の様子が少し変だ。綾香が顔を近付けるとすぐにうつむいてしまうし、身体に触れようとすると用事を思い出したとか言ってはどこかに行こうとする。本気で綾香のことを避けているわけではないようだが、どこかよそよそしい態度が目立つ。

「(一緒にドライブした後からかな……)」

 思い当たる節はある。数日前、とんでもなく恥ずかしい姿を綾香に見られてしまったことをいまだに気にしているのだろうか。頬を赤く染めて目に薄っすらと涙を浮かべた男の子の姿を見ながら綾香は思いを巡らせる。きっと時間が解決してくれるだろう……。

「サイズはほぼOKね。じゃあ一旦脱いじゃって」

 綾香は満足げな表情を見せて立ち上がった。葵は火照った顔を見られないようにするためか、慌てて視線をそらす。そんな仕草もいちいち可愛いな、と思いながら綾香は葵が制服を脱ぐのを待っていた。

「どうしたの?少し直したいから、とりあえず脱いで」

 突っ立ったまま動かない葵にもう一度脱ぐよう促す。

「1人で、できるから……」

 葵は遠慮がちに、か細い声でつぶやいた。

「あぁ、ごめんね。じゃぁ一旦部屋出てるから、ベッドの上に置いておいて」
「……ごめんなさい、綾香さん」

 部屋を出る時、ちらっと振り返ってみる。ドアの隙間から見えた葵は、震える胸に両手を当て、深くため息をついていた……。

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 小1時間後、綾香は1人で葵の部屋にいた。床に腰を落として座り、膝の上に先程脱いだばかりの衣装をのせて細かいチェックをしている。葵はといえば、母親に買い物を頼まれたとかで、外出中である。

「何かしら?」

 ふと、綾香の手が止まる。彼女の手には、ついさっきまで葵が身に付けていた女の子用のショーツがあった。気になったのは、ショーツの裏地だった。何気なく手にとった際に、指先にぬるっとした感触があったのである。裏返してよく見ると、数センチほどの楕円形の染みが薄っすらと残っていた。再び指先でその個所をなぞってみると、わずかに粘性のある液体がじっとりと染み込んでいる。

「(もしかして……)」

 先日見てしまった、葵の『男の子の証』が記憶によみがえる。じっとりと濡れた綾香の手のひらと、そこから香り立つ男の子の匂い。思い出しただけで、頬が火照ってしまう。男性経験の無い綾香にも、葵の放ったものの正体くらいは知識として理解している。
 しかし今、綾香の指先を湿らせている液体は先日のそれとは違うようである。色々と思案しているうちに、いつの間にか彼女の呼吸は浅く早く、熱を帯びたものとなっていた。

 ふと、部屋に置いてあった姿見に映る自分の姿が目に入る。薄い水色のTシャツにコットン地のスカート。外出する時とは違い、葵の部屋に来るときは、ラフな格好のことが多い。普段は透きとおるように白い肌が桜色に上気し、切れ長の瞳は心なしか潤んでいるように見える。

 無意識に擦り合わせた太腿の奥から、熱いもどかしい感覚が湧き起こる。

「だめよ、こんなとこで」

 口にした言葉とは裏腹に、綾香の指はスカートの裾から、最も熱を帯びた中心部へと滑り込む。そしてもう片方の手は葵が履いていたショーツを握り締めたまま、遠慮がちに自らの鼻先へと近付けていく。

「(葵の匂い……)」

 わずかな残り香が鼻腔を刺激し、彼女の正常な思考を妨げる。太腿の間に差し入れた指の先が、下着の上から柔らかい丘の頂きを往復する。単調ではあるが、ゆっくりと、そして次第に強く。綾香の口がわずかに
開き、熱い吐息がこぼれ出す。

「だめ……だめなの……葵……」

 普段は弟のように接している男の子の名前を口にする綾香。手にしたショーツにそっと口づけした。絶頂に達した時の葵の姿が、閉じた瞼の裏によみがえる。

「やぁ……あぁっ……!」

 火照った首筋から湧き上がる自らの匂いが、葵の残したそれと混ざり合い、部屋の中に立ち込める。

「ん……ぁ……ふぁ……」

 指の動きが次第に早まっていく。少しずつ溢れ出した粘液が薄い生地を通してじっとりと染み出し、下着に隠れた秘めやかな谷間が存在感を増す。戸惑いながらもパンティの裾から手を滑り込ませ、わずかに開きかけた大事な部分の内側を指の腹で擦り上げる。

「だめっ……!」

 聞こえもしない淫猥な水音が、身体の奥から響いたような気がした。甘い電流が背筋を走り抜け、腰が自然とくねり、長い黒髪が左右に揺れる。部屋の中には1人の少女の嬌声が響き渡る。

「もっと、もう……ぁ…あああっ!」

 粘液の絡みついた指が、少しずつ奥の方へと埋没する。経験したことのない領域へ、一線を踏み越えようとしたその瞬間、姿見に映った自分の姿が再び視界に飛び込んできた。半開きの口から首筋まで涎が零れている。座り込んだ姿勢のまま、だらしなく左右に開いた両脚。そして、意思の欠片も残っていないような、焦点の合わない瞳。

「(いやだっ……わたし、人の部屋で何をしてるのっ!?)」

 自ら開いた闇に引きずり込まれそうになっていた意識が、急速に覚醒する。素早く指を下着から引き抜くと、膝を閉じる。しかし、荒い呼吸も、火照った身体も、すぐには元に戻りそうになかった。

「(お手洗い行ってこよう……)」

 快楽の余韻の残る下半身に刺激を与えないように慎重に立ち上がる。ふらつく足元を支えようと、そばにあった机に手をついた。

「葵の机……」

 綾香がもたれかかっているのは、昔から葵が使っている勉強机である。綾香が突然遊びに来たりするときには、大抵そこで読書か勉強をしていることが多い。葵の思い出や温もりが詰まっている、机。

 ふと、綾香の視線が木製の机の角の部分に留まった。

「(やだっ……わたし何考えてるの?)」

 綾香の顔が、瞬間的に熱くなる。頭の中によぎった不埒な妄想を、必死に忘れようとするが、視線をそこから反らすことができない。自分が想像した行為をそのまま実行に移そうと、身体が動く。

「(少しだけ、少しだけだから)」

 少しつま先立ちになりながら、乙女の部分を机の角にあてがう。そして、ゆっくりと体重を預けていく。

「ひあぁっっ!……あぁ……ぁ……」

 押さえ切れない悲鳴が、喉の奥から洩れた。身体の奥から急激に快感が湧き起こり、背筋が反り返る。秘所が一瞬収縮した後、奥に溜まった愛液が一気に外へ零れ出す。一箇所に集中した自らの重みで、充分潤った谷間は左右に開き、机の角が下着を巻き込みながら陰唇の内側を擦り上げた。

「らめぇ……ぁ?…ぁっ!あああああっ!!」

 強烈な快感が身体の中心を走り抜け、机の角をくわえ込むように秘所が収縮する。お腹が痙攣して波打ち、背中が反り返って身体を緊張させる。全身を駆け巡る絶頂感で、綾香の理性は完全に押し流された。

「いっちゃ……った……」

 少しずつ絶頂の波が引いていく。自分の感覚を取り戻そうと、止めていた呼吸をゆっくり再開させる。
 しかし、下半身の力が一気に抜けてしまった瞬間、机に押し当てていた部分が小刻みに震えだした。

「あっ……やだやだっ……だめだったらっ!」

 咄嗟に腰を引き、手で押さえつけようとした時には、既に温かい液体が太腿に一筋零れ落ちていた。

「(出ちゃうっ!)」

 もう決壊を防ぐことはできない。そう悟った綾香は、スカートを太腿の間に巻き込んで、おしっこが床に零れ落ちるのを防ごうとする。しかし、すぐに吸水力の限界を超え、手のひらへと染み出してくる。

「(行かないと……)」

 幸い、お手洗いは葵の部屋のすぐ近くにある。わずかに残った意思の力を総動員して、綾香は足を動かした。一歩
踏み出すたびに、熱い液体が左右の太腿を伝う。スカートや指先から滴り落ちた分は、床に点々と跡を残していく。

「(早く……早くっ!)」

 葵の家族がいないことを祈りながら廊下を移動する。たどり着いたトイレのドアを開け、体を反転させるとスカートを捲り上げ、そのまま便座にへたり込んだ。下着の底に、残った小水が勢い良く放出される。既にお尻の方までぐっしょり濡れたパンティから、ばしゃばしゃと派手な音を立てて零れ落ちる金色の液体。

「(何で……気持ちいいの……?)」

 尿道を通り抜ける熱い感覚のせいで、もどかしい快感の残り火がなかなか消え去らない。熱を帯びた下腹部を両腕で抱え込み、全身を震わせる綾香。

「(掃除しないと……)」

 葵が帰ってくる前に、お漏らしの跡を拭いて、部屋の換気をしないといけない。恍惚とした状態のまま、ぼんやりと思いをめぐらす綾香の耳に、トイレの外で微かに響いた床の軋む音は届いていなかった……。








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