〜続・着せ替え人形〜







「ねぇ、ドライブ行かない?」

 ちょうどベッドに寝転がって本を読んでいた時だった。背後で突然ドアが開く音がしたかと思うと、部屋の中に明るい声が響いた。

「綾香さん!?……突然どうしたの?」

 驚いて振り返ると、ベッドの上に腰掛けようとしている綾香の姿が視界に飛び込んでくる。長い黒髪の先が目の前で揺れ、ほのかな香りが周囲に漂う。
 綾香の家とは、自分たちが幼い頃からずっと家族ぐるみの付き合いを続けている。綾香も頻繁に葵の家に遊びにきては、自宅であるかのように気楽に振舞っている。先ほどのように前触れもなしに葵の部屋に入ってくることも度々ある。

「ノックぐらいしてよ」

 葵の中性的な可愛らしい顔に、少しだけ怒ったような表情が浮かぶ。

「ごめんね。でも、これ見て」

 そう言って綾香が取り出したのは、真新しい運転免許証であった。そういえば1月くらい前に教習所に通いだしたとかいう話を聞いたような気がする。

「というわけなの。私のドライブに付き合ってくれる?」
「うん、いいけど……」

 もちろん綾香と出かけることはやぶさかでない。嬉しそうな口調で答えたが、彼女がぶらさげている大きな紙袋がふと目に留まった。ひょっとして……。
 幼馴染みの口から出たセリフは予想通りの内容だった。

「葵、出かける前にこれに着替えてね」 

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「(ドライブするのに、わざわざおめかしする必要はあるのかなぁ……)」

 膝上まである黒いニーソックスに脚を通しながら考える。もっとも、そんな疑問を綾香にぶつけても一蹴されるだけであろう。無駄とわかっている以上、黙々と着替えを続けるしかなかった。

 オーソドックスな丸襟で長袖の白いブラウス。そして端に白いレースをあしらった、ボリューム感のあるダブルスカート。清楚な装いは葵が生来持っている雰囲気とぴったり合っている。どこから見ても女の子のような容姿。綾香に言われて髪を伸ばし始めていたおかげで、付け毛などしなくても充分可愛らしい。

「よし、これでいいわ。行きましょう」

 綾香は満足そうな顔を見せると、葵の手を引いていそいそと部屋を出た。

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 車は片側三車線の広い道路を走っていた。綾香の運転する乗用車はごく一般的なセダンタイプで、葵はその助手席に座っていた。最初は陽気にお喋りを続けていた2人だったが、しばらくして急に葵の口数が少なくなる。

「どうしたの?。何か気になることがあるの?」
「その……気になるってほどではないけど……」

 話して良いものかどうか、少しの間逡巡する。

「追い越されるときとか、信号待ちのときとか、他の車に乗っている人に見られているような気がして……」

 女の子の格好をして綾香と外出するのは初めてではないが、相変わらず周囲の目が気になって仕方がない。

「気のせいよ、気のせい」

 お気楽な答えが運転席から返ってきた。

「そうなのかな……」

 綾香に自意識過剰だと思われてしまったかもしれない。そう思うと頬がかっと熱くなる。赤くなった顔を見られないように助手席でうつむき加減に座り直した。

 そんな葵の様子にいじらしさを感じてか、綾香の表情が和らぐ。一旦車を路肩に停め、シートベルトを外して身体を寄せてきた。綾香の体重を全身で感じた瞬間、頬っぺたに彼女の唇が触れた。

「こんなところでだめだよ……ねぇ、綾香さんっ」

 綾香の豊かな双丘が薄い胸板を圧迫する。柔らかい感触に鼓動が高鳴る。

「その格好の時は『お姉さま』でしょ。何度言ったらわかるの?」

 たしなめるように言うと、綾香は片方の手を葵の腰とシートの間に挿し入れ、くすぐるようになぞり回した。

「ひゃっっ」

 思わず可愛らしい声を洩らしてしまった。彼女の手はお尻から太腿に移り、繊細なタッチで葵の官能を刺激する。そして綾香は悪戯っぽく葵の首筋を舐め上げた。

「や、あぁっ……」

 今度ははっきりと悦びの混じった声が車内に響いた。背筋をぞくぞくと快感が這い上がってくる。自分の意思とは関係なく、『男の子の部分』が自己主張を始める。

「(だめぇ……)」

 快楽が集中する先端をスカートの上から押さえるべくそっと手を伸ばす。

「だめよ、葵」

 その様子を目ざとく見つけた綾香に手首を優しく掴まれてしまう。

「車の中ではしたないことしちゃだめよ」
「(それは僕のセリフだよ……)」

 綾香は自らの長い髪を後ろで束ねていたゴムの髪留めを素早く外した。そして葵の両腕は背中側に回され、その髪留めによって後ろ手に拘束されてしまう。

「わたしが良いって言うまで外してはだめよ」

 少し力を入れれば簡単に外せそうな拘束だが、小さくうなずいて素直に従う。互いの肌が触れ合ったのはわずかな時間だったが、身体の芯の火照りは容易に収まりそうにない。シートに背中を預けて熱い吐息をつく。

「では、出発!」

 シートベルトを締め直した綾香が再びアクセルを踏み込んだ……。

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2人の乗った車はしばらく走った後、料金所を通って高速道路に入った。綾香の予定では郊外の景色の良いところまで遠出するつもりらしい。道はあまり混んでおらず、スムーズに流れていた。

「ね、あや…お姉さま、どこまで行くんですか?」

 遠慮がちに尋ねてみた。

「そうね、順調に行けばあと1時間くらいかかるかしら……どうかした?」

 まだ運転経験が浅く、高速道路に慣れていないために運転に集中していた綾香だったが、助手席の葵の様子が
おかしいことに気付く。

「その……えぇとね……あの……」

 何度か言いかけて口ごもる。でも車に乗り続けている限り、この悩みは解決することはない。意を決して口を開いた瞬間だった。

「お手洗い……行きたいの?」

 綾香に機先を制されてしまった。言葉の代わりに、太腿をこすり合わせる仕草で肯定の意思を伝える。そういえば家を出てから一度も休憩していない。

「そうね、じゃあ次の休憩所で休みましょう」

 タイミング良く、もうすぐサービスエリアだということを示す標識が車の横を通り過ぎた。その時、少しずつ速度を落としながら何気なくスピードメーターを見ていた綾香があることに気付く。ガソリンの残量を示すメーターが0に近付き、警告ランプが赤く点灯していた。

「あら、ガソリンスタンドに先に寄るわね」

 綾香はそう言って休憩所の入り口にあったガソリンスタンドに車を滑り込ませた。

「いらっしゃいませ!」

 運転席の窓の側から男性の店員が声をかけてきた。思わずびくっと肩をすくめる葵。店員に不審がられないように、さりげない風を装わなければと思う。しかし、ますます高まってきた尿意のために、無意識のうちに太腿をすり合わせる動作を繰り返してしまう。

「ハイオク、満タンね」
「はい、窓もお拭き致しましょうか?」
「そうね、お願いします。」

 綾香はドアを半分開けて店員と話している。ガソリンの臭いが車内に入り込み、鼻腔を刺激した。2人が乗る車の他にも周囲に数台の車が止まっており、大勢の店員や客がスタンド内を歩き回っている。

「(後ろ手に縛られているのがばれないかな……?)」

 外の様子をおそるおそる窺いながら思案する。いっそのこと解いてしまおうかとも思ったが、後で綾香に怒られるのも嫌である。

「どうしたの?」

 突然、綾香がわき腹のあたりを軽く小突いてきた。

「きゃっ!?」

 思わず甲高い声を上げてしまった。同時にシートの上で華奢な体が跳ねる。そして身体を動かした拍子に下腹部の違和感に気付く。いつの間にか女性用の下着の中で『男の子の部分』が張り詰めていたのだ。

「(やだ、なんで?)」

 再び身体の芯が熱くなってきていた。一度意識してしまうと、一番敏感な部位の神経がますます研ぎ澄まされていく。ショーツの中から柔らかい布を押し上げるようにして股間のものが主張を始めたことがはっきりと自覚できる。腰の辺りに甘く痺れるような刺激が広がり、もどかしげに下半身をくねらせる。

 葵の身体に生じた異変はすぐに綾香の知るところとなった。必死に隠しているつもりなのだが、頬を真っ赤に染め、唇をかみ締めて体を固くしている様子を見れば一目瞭然である。
 綾香もそんな年下の男の子を抱き締めてあげたい衝動にかられているようだが、車の中にいる上に、周囲の目もあってはそうそう自由に行動できるものではない。それでも彼女は外の様子をちらっと確認すると、葵の太腿とシートの間に手を割り込ませてきた。突然の行動に思わず身を固くする。手はそのまま膝の方へ、そして大胆にもスカートの中へと潜り込んで来た。

「やだっ……お姉さまっ!」

 綾香のしなやかな手が直接柔肌を這い回り、葵の官能を昂ぶらせる。身をよじって逃れようとするが、車内は狭く、シートベルトに邪魔されて思うように体を動かすことができない。綾香は悪戯っぽい笑みを浮かべると、葵のショーツの紐を素早くほどいてしまった。

「やぁっっ!!」

 可愛らしいホワイトレースの横ひもタイプのショーツが一気に緩む。今まで股間を抑えつけていた張力が弱まり、快感を溜め込んでいた熱いものがスカートの中で勢い良く跳ね上がろうとする。

「だめぇっっ!」

 とっさに前傾姿勢になり、太腿で男の子の部分を挟み込むと、閉じた膝を浮かせて助手席の中で縮こまる。本来の役割を果たしていない下着の裾から恥ずかしいものが一瞬顔をのぞかせる。

「だめよ葵、姿勢を正しなさい」

 そんな必死な努力を無視して、綾香は葵の肩と膝に手をかけ、元の姿勢に無理やり戻してしまう。

「きゃあっっっ!」

 太腿の間で脈動していた固いものが反り返るように飛び出し、スカートを押し上げた。下着よりざらついた感じのスカートの内布と擦れた瞬間、脳天まで突き抜けるような電撃が走り抜ける。痛みと快感が織り交ざったような刺激に思わず声を上げそうになった瞬間、突然目の前を黒い影が覆った。

「……!!」

 ちょうど店員がフロントガラスを拭こうとしてボンネットの上に身を乗り出したところであった。
あげかけた悲鳴を懸命に飲み込む。見られてしまったかも、という最悪の事態が頭をよぎるが、店員はこちらの様子を気にしている様子は無い。

「(お願い、おさまってぇ……)」

 必死に平静を装おうが、スカートを押し上げているものは胸の鼓動に合わせて上下動を繰り返し、生じた摩擦が快感をひたすら増幅させる。ボリュームのあるスカートを履いていたため大して目立ってはいない。しかし車の外からであっても、ちょっと注目してみればすぐに違和感を覚えたであろう。

「ありがとうございました。○○○○円になります」

 羞恥心と抑えようの無い官能で頭が飽和しそうになっていた時、運転手側のドアを少し空けて綾香が代金の支払いを始めた。うつむき加減で目に涙を溜めている葵の様子を見て、領収証を持ってきた店員が心配そうに話し掛けてくる。

「お連れの方、ご気分でも悪いですか?」
「ええ、少し車に酔ってしまったらしいの。サービスエリアで休憩するつもりですから、大丈夫です」

 何事もなかったように答える綾香に笑顔を見せると、店員は店内へと戻っていった

 支払いが終わり、スタンドを出てサービスエリアの駐車場に車を停めると綾香が笑顔で葵を促す。

「さぁ、外に出て休憩しましょう」
「ちょっと待って……もう少し車の中で……」

 泣きそうな顔で懇願する。先ほどから全身の熱が全くひかない。

「外に出た方が気分が楽よ。それにお手洗いに行きたいのでしょう?」

 先に車を降りた綾香は助手席側のドアを開けて葵の手を引く。その際、手首を縛っていたゴムは外してくれた。

「(他人に見られないように、個室に急いで飛び込もう……)」

 観念して綾香の後をついていくが、トイレとは別の方向に進んでいることにふと気付く。飲食施設やお手洗いがある場所とは逆方向だ。このサービスエリアは非常に贅沢なつくりになっており、広い公園のようなスペースも併設されていた。周囲に人影はほとんど無かったが、所々に生えていた木々の陰に身を隠すようにしながら奥の方へと入って行く。

「お姉さま、お手洗い……先に……」

 快感の合間にこみ上げて来る尿意に悩まされながら、腰砕け寸前の状態でついて行くしかなかった。今の姿を人に見られたら、と思うと心配で気もそぞろである。スカートのある箇所だけ内側から押し上げられ、浮き上がっている。人目に触れないように隠しておきたかったが、そこを直接押さえつけるような行為は恥ずかしくてできない。仕方なく空いている方の手で、軽くスカートを持ち上げ、中央の盛り上がりが目立たないようにしてみる。摩擦による刺激が減ったおかげで、少しだけ快感は収まったが、股間のものが無防備に外気に触れるようになったことでさらに尿意が高まり、焦燥感が募る。

「早く戻ろうよ、お姉さまぁ……」

 限界が近付いていることがはっきりとわかる。腰は完全に引け、綾香が手を離したらその場でへたりこんでしまいそうな状態である。

「もうちょっといいでしょ、葵」

 振り返った綾香の目が潤んでいる。葵の悩ましげな様子を見ているうちに、いつの間にか彼女も気持ちが昂ぶっていたらしい。葵の身体を正面から抱き締めようと腕を伸ばしてくる。

「だめぇ……だめですっ!」

 今綾香に抱き締められたら自分の身体はどんな反応を示してしまうのだろうか。顔を真っ赤にしながら両手で綾香を押し返そうとする。

「ひぁあっっ!」

 その時、綾香の太腿が葵の下半身から突き出た部分に軽く触れた。突然襲った刺激に思わず悲鳴を上げてしまう。尿意と快感の入り混じった妖しい感覚に身体が支配され、悩ましげな声を上げながら太腿を痙攣させる。

「んあぁ……あ………」

 女の子のような端正な顔に涙が一筋こぼれ落ちた。腕からは力が抜け、上半身を綾香に預けた。

「葵……」

 綺麗な顔が近付いてきて、熱い吐息が頬にかかる。涙の跡をなぞるように、綾香の唇が頬っぺたに触れた。そしてスカートの方へと手が伸びてくる。

「あひ……っ!」

 予想もしなかった衝撃が下半身を襲い、はしたない悲鳴を周囲に響かせてしまった。見れば綾香の白い指がスカートの上から葵の性器を軽く握るようにして巻きついている。

「やっ……いやぁっっ!だめぇ――!!」


 綾香の指が優しく上下に動く。いや、ひょっとしたら葵が無意識のうちに腰を前後に揺さぶっていたのかもしれない。送り込まれた最大級の快感によって、限界まで張り詰めていた股間の先から熱く白い精液が勢い良く噴き出し始める。

「でちゃ……きゃふうっ、ひ、ひぁぁっ!ああ――!!」

 スカートの中央に黒い染みができ、そのまま綾香の手をじっとりと濡らす。足元やニーソックスにも大量に白い粘液がこぼれ落ちた。

「あぁ……あ……ぁ」

 葵の男の子の部分は精液を放出し終わっても、脈打つような動きを綾香の手に伝えていた。そのままの姿勢で抱き締めあう2人。しばらくして綾香は葵の下腹部から手を離すと、こっそりと濡れた手のひらの匂いを嗅いだ。男の子の香りが彼女を嗅覚を刺激する。初めての体験に気分が高揚したのか、綾香は頬を真っ赤に染めてしまっていた。

「……じゃあ、お手洗い行きましょうか」

 平常心を取り戻した綾香は葵の手をとり、当初の目的を果たそうと歩き出す。しかし、葵の足は全く言うことを聞かず、一歩も踏み出すことができない。

「ごめんなさい……綾香さん……」
「どうしたの?大丈夫っ?」
「もう、漏れちゃう……だめぇ……」

 消え入りそうな声で限界が訪れたことを告白する。洋服を汚してはいけないという意識から、スカートの裾をつまみあげる。身体がぶるっと震え、両足の間から細い滴りが途切れ途切れに出始めた。やがて一本の線となって地面に落ち、次第に小さな水溜りを形成する。解放感で頭の中がいっぱいになり、恥ずかしい行為を綾香に見つめられていることはもう気にならなくなっていた。

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 次第に小水の勢いが弱まり、ゆっくりと大きな息を吐き出しながら再び全身を震わせる。

「お洋服汚しちゃった……ごめんなさい」

 きっと自分の顔は涙でくしゃくしゃになっているだろう。綾香の顔を見ることもできず、うつむいたまま小さな声で謝罪の言葉をつぶやく。

「いいのよ、着替えは車の中にあるんだから」

 そう言って綾香はそっと抱きしめてくれた。柔らかい胸から伝わってくる温もりが、心に満ちた羞恥心を少しだけ洗い流していく……









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