〜診察室〜





「熊井さん、お入り下さい。」

 白衣を着た女性が検査室のドアを開けて顔を出し、待合室に向かって呼びかけた。奥の方から若い女性の声で返事があったのを確認すると、再び部屋の中に戻っていく。

 検査室の中央で椅子に腰掛け、患者の入室を待っているのは桜井真由子という女性検査技師であった。昨年専門学校を卒業したばかりで、まだ若い。中背で少し痩せ気味の体つきには目立った特長はないが、色白で少し憂いのある顔からは、控えめで真面目な性格が連想される。

「失礼します。」

 ドアが静かに開いて一人の女性が入ってきた。第一印象だけで言えば真由子と同じくらいの年代だと思われた。手元のカルテに目をやると、果たして彼女とは同い年であった。

「よろしくお願いします」

 その女性は向かいの椅子に座ると、軽く会釈をした。白いブラウスに濃紺のフレアスカートというシンプルな服装。少し色の入った長いストレートヘアと切れ長の勝気な瞳。豊満な胸の膨らみとくびれた腰、肉感豊かだが引き締まった臀部が色香を漂わせている。

「(綺麗な人だなぁ)」

 思わず見とれてしまっていた真由子だったが、その女性の顔にある面影を見出してはっとする。

「(この人、どこかで…?)」

 急いでカルテを見て名前を確認する。

「(熊井…七海?)」

 最近でこそ女の子のメジャーな名前として知られているが、真由子の世代ではあまりいなかった気がする。自分の友人にそんな名前の人がいただろうか…?

「(ひょっとして……?)」

 中学生時代の記憶が少しずつよみがえってきた。確か同じ名前の同級生がいたはずだった。そしてもう一度女性の顔を正面から見た瞬間、今度ははっきりと思い出した。

「(まさか…あの人だなんて……)」

 桂木七海。

 その名前が頭に思い浮かぶと同時に、封印していた過去の嫌な思い出が記憶の底から次々と浮かび上がってきた。中学生の頃、その引っ込み思案でおどおどした性格から、いじめの標的にされていた真由子。そしていじめ集団の中心、リーダー的な存在だったのが桂木七海だった。彼女から受けた行為も陰湿なものが多く、記憶から消し去るまでには、卒業してからも長い時間を必要とした。

「あの…どうかされましたか?」

「あぁ、すみません。では検査前のチェックをしますね。」

 カルテに目を通しながら、真由子は心の中に静かな憤りが湧き上がってくるのを感じていた。向こうは覚えていないらしいが、自分は今でもはっきりと憎い相手の顔を覚えている。苗字が変わっているということは結婚したのだろう。昔と違って気の強そうな雰囲気は薄れ、柔和な表情をたたえている。きっと幸せな生活を送っているのだろう。真由子は心の中に嫉妬に似た感情が少しずつ広がっていくのを感じていた。

 とりあえず仕事をしなければ…。どうやら向こうはこちらの顔を覚えていないようである。できるだけ平静を装って検査技師としての仕事に戻る真由子。

「えーと、腹部の超音波検査ですね。」

 医師から送られてきたカルテの内容を確認する。特に目立った異常があるわけではないが、患者の希望により念のため検査を行って下さいという申し送りだった。

 桂木七海を検査台に寝かせると、お腹をまくって素肌を露出させる。

「下腹部の検査なので、スカートを少し下ろして下さいね。」

 七海は少し恥ずかしそうな表情を浮かべつつ、ホックを外してスカートをずらし始めた。
 しかし、そんな行為ひとつが少しずつ真由子をいらつかせ始める。
特に若い女性に多いのだが、肌を露出するのが恥ずかしいのか、中途半端にしかシャツやスカートを脱いでくれないことがたびたびある。七海もご多分にもれず、パンティのラインが見えるか見えないかというところまでしかスカートを下げてくれていない。

 普段の真由子であれば、優しく諭して脱いでもらっているところだったが、今日はそんな気分になれなかった。相手の腰に手をかけると、荒っぽくパンティごと引きずり下ろしてしまう。

「きゃっ」

 七海の女の繁みが下着の上端から顔をのぞかせかけた。突然のことに思わず小さな悲鳴を上げ、股間を両手で隠そうとする。

「あぁ、すみません。検査の間だけ我慢してもらえますか?」

 手首を軽くつかみながら、事も無げに真由子が言った。しぶしぶ両手を体の脇に戻した七海の顔は、心なしかほんのり赤く染まっているように見える。

 真由子の目に七海の白い腹部が映る。しみやしわなど全くない、若い女性らしく張りがあって綺麗な柔肌である。

 半裸の彼女を見ているうちに、過去に受けた数々の行為が記憶からよみがえってきた。中学生になってすぐに始まったいじめの内容は、次第にエスカレートしていき、性的な嫌がらせを受けたこともあった。男子の前でさらし者にされたことは、今でもトラウマとなって残っている。真由子が今でも男性と付き合う気になれないのは、そのせいかもしれない。

「(さっさと終わらせてしまおう…)」

 これ以上七海の顔を見ていたら、嫌なことばかり思い出してしまいそうな気がした。手早く終わらせてしまおうと、投げやりな手つきで検査用のローションを塗り始めた。

「んん………」

 その時、七海の口から悩ましげな声が一瞬もれる。何かに耐えているような声。

「(そっか…。下腹部検査だから……)」

 真由子の勤めている病院では超音波検査の際、画像を見易くするために、事前に患者に水分を沢山摂ってもらっている。七海のお腹も手で触ってわかるほどに張っていた。
先ほど声を上げてしまったのは、冷たいローションを前触れも無しに乱暴に塗られたことで、周辺の筋肉が緊張したせいだろう。

 …真由子の眼に、妖しい輝きが灯る。

 そのまま手のひらでローションを広げつつ、タイミングを見計らって七海の下腹部を軽く圧迫する。その度に眉間にしわを寄せ、嫌がるような表情を見せた。押される度に高まる尿意を我慢している様子が見て取れる。
 こちらが同性だからか、検査の経験があまりないのか、七海が文句を言ってくる様子はない。

「(随分丸くなったものね…)」

 昔の桂木七海は気に入らないことがあると、すぐにキレて噛み付いてくるような性格だった。少しは我慢というものを覚えたのだろうか。

 そんなことを考えながら、ひとまず本来の仕事に戻る。一通り検査をしたが、特に問題は見られなかった。
しかし、真由子は検査を終えることなく、執拗に膀胱の上あたりでプローブを往復させる。張り詰めているところに冷たい無機物を押し付けられて、時おり太腿をぴくっと震わせる。

「あの…まだですか……?」

 さすがに違和感を感じて七海が尋ねてきた。

「そうですね……えーと……」

 とっくに検査自体は終わっているが、心の整理がつかないまま何となく手を動かしていた。今日はこの女のおかげで、せっかく忘れかけていた嫌な思い出を引っ張り出されてしまった。このまま帰っても、悶々としてしまいそうである。

 そして真由子は何か思い付いたような表情を一瞬見せた後、ゆっくりと話し始めた。

「超音波では…ちょっと見えないところがありますね……MRI検査をしましょう。」

「どこか…悪いところがあるんですか?」

 七海は次第に増してくる下腹部の圧迫感に耐えていたが、予想外の事態に驚き、不安な顔を見せる。

「何とも言えませんが…、受けておいた方が良いですよ。すぐに予約入れますね。」

 本来MRIの検査などは非常に混んでいて、すぐに受けられるものではない。ちょうど今朝、真由子の担当分で1人キャンセルが出ていたのを思い出したのである。検査係に電話を入れ、何とかねじこんでもらうことができた。

「すぐに検査を受けられるみたいですよ。わたしも一緒に行きましょう。」

 そう言ってすぐに立ち上がる真由子。

「すみません、その前に…お手洗い……行ってきてもいいですか?」

「すぐ済みますから。もう行かないと間に合いませんし、少しだけ我慢して下さい。」

 真由子は七海の言葉を遮るように言うと、手元にあった検査着を手渡した。

「先にこれに着替えてしまって下さい。」


 ――しばらくカーテンの向こう側で着替えていた七海だったが、困惑した表情を浮かべて戻ってきた。

「あの…これ……サイズが違っていたようなんですけど…?」

 彼女が着ているのは、頭から被る割烹着のようなタイプで、シンプルな水色の検査着である。ただし、それは小学生が着てちょうど良いくらいのサイズで、当然ながら大人の七海には小さすぎた。豊かな胸とお尻のラインが検査着の上からでもはっきりとわかるほど密着している。丈も膝上20cmくらいといったところだろうか。今どきの女子高生でもなかなか履かないような短いミニスカート程度の長さしかない。

「すみません、それしか無かったもので。さ、少し急ぎますね。」

 真由子は七海の手首を掴むと、検査室の外へと連れ出した。

「ちょっ……何でそんなに……」

 脱いだ私服と荷物を小脇に抱えたまま、引っ張られるように歩く七海。そんな彼女の様子には目もくれず、真由子は一般待合室の方へと歩を進めていく。割と大きな病院なので、スタッフの専用通路を使えば目的の検査室に行けるのだが、わざと大勢の患者がいる方を選んだのである。

 さすがに閉口して声を上げかけた七海だが、混み合っている待合室に出ると、注目が集まるのを恐れて黙ってしまった。しかし、それでも彼女たちに周囲の視線が集まり始めるのを止めることはできなかった。
 妙齢で容姿端麗の女性が、必要以上に身体にフィットした検査着を着て廊下を歩いている。胸元だけは片手に持った荷物で隠すことができたが、肉付きの良いお尻は周囲の目にさらされてしまっている。そして裾からすらりと伸びた生足にハイヒールを履いている様はアンバランスに見えたが、それが逆に扇情的でもあった。

 真由子が早足で歩いているせいで、転びそうになりながらついていく七海。検査の前からずっと我慢していた尿意はさらに高まり、大またで歩くと、下半身の筋肉が緩んでしまいそうで恐い。自然と歩幅が狭くなり、お尻を後ろに突き出すようにしながら真由子に引っ張られている状態である。

 そんな姿勢を続けていたものだから、少しずつお尻の後ろ側の検査着がずれ、もう少しで下着が見えそうなほどまくり上がってしまっていた。背中側の様子がどうなっているか自分では見えなかったが、次第に周囲のざわめきが大きくなり、注目が集まり出しているのを感じて、七海は頬を真っ赤に染めていた。
 とにかく早く待合室を通り抜けてしまいたい…。それだけを考えながら下を向いて歩いていた。途中、通路でも随分と好奇の目で見られたが、その時にはもう、股間が痺れてくるほどの尿意と闘うのに必死で周囲のことは気にならなくなっていた。



 MRIの検査室に着いた真由子は七海から手を離すと、室内にいた2人の男性スタッフのところに行った。そして自分で検査を行うから皆さんは休憩していて下さいと告げる。

「え?いいんですか?一人でやるのは大変ですよ?」

「えぇ。元はこちらで無理に都合つけてもらった検査ですし。そろそろ昼休みでしょうから、お先に休んで下さい。」

 検査室から出て行ったスタッフを見送ると、2人きりになった部屋の中で真由子は七海の方に振り返った。見れば、わずかであるが眉間にしわを寄せ、耐えるような表情を浮かべている。そして長い足は小刻みに、せわしなくステップを踏んでいる。片手に持った荷物で下半身を隠しているが、もう一方の手の動きから、恥ずかしい場所を手で押さえつけているのではないかと思われた。

「(そろそろ…限界が近いみたいね……)」

 心の中でほくそ笑むと、荷物を置いてMRIの検査台の横に座るよう指示した。

「あの…やっぱり……先にお手洗いにいきたいんですけど……」

 先ほどより強い口調で言う七海に対して、露骨に嫌な顔を見せながら真由子が返答する。

「お小水が溜まっていた方が検査し易いですし……他の方にも我慢して受けて頂いてますから。」

 いい加減な理屈を付けてきっぱり言うと、しぶしぶ椅子に腰掛けた七海に、液状の検査薬がなみなみ注がれてずっしりと重いコップを手渡した。

「これ飲んで下さい。造影するために必要ですから。」

 七海は何か言いたげな表情を見せたが、観念したようにコップに口を付けた…。


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「(検査が終わったら…文句言ってやるわ。とりあえず受付行って……)」

 おとなしくしていたように見えた七海だったが、心中穏やかではなかった。大体、向こうでわざわざ着替えた意味なんて無かったじゃないの…。本当は今すぐにでも生意気な検査技師を怒鳴りつけてやりたかったが、じっとしていないと尿意が限界線を越えてしまいそうな気がして、今は我慢していた。

「(ほんとに…我慢できるかしら……。でもすぐ終わるって言ってるし…)」

 冷たい検査台に横たわった瞬間、下腹部に鋭い痛みを感じて身体をびくっと震わせる。検査台だけではなく部屋の温度もやけに低い。むき出しの生足から肌寒さが伝わって来て、さらに切迫感が増していく。

「あの……寒いんですけど。」

 目の前で準備を進めている女性技師に訴えるが、検査が始まれば機械の熱で温かくなるからと取り付くしまもない。
そして、腹部に特殊な固定用のベルトをきつく巻かれて、思わず声を上げてしまう。

「ひんっ!!!」

 外部から加えられた圧力で、膀胱の門が一瞬開きかけたような気がする。伸ばしていた脚を少し曲げて下腹部に力を込め、続けて両手で出口を押さえつけようとする。

「…ちょっと失礼しますね」

 タイミングを計っていたかのように真由子は七海の両手首を掴むと、ばんざいをさせるような格好にして、七海の頭の上でベルトを使って検査台に固定してしまう。

「やぁっ!?…なに……?」

「検査機の中が狭いので、こんな姿勢ですみません。我慢して下さいね」

 そう言うと真由子は操作室の方へ入って行った。その際、さりげなく部屋のエアコンを最低温度まで下げてしまうが、自分のことで精一杯の七海が気付くことは無かった。


「(いやぁ…こんな格好で……耐えられない…)」

 いざという時は手で押さえてでも我慢しようと思っていたのに、両手を拘束されてはそれもかなわない。
そんな焦りが身体を緊張させ、切迫感の高まりと、お漏らししてしまうのではないかという恐怖心を生む。それでもぎりぎりまで我慢しようと決意し、検査の開始を待っていた。検査着の短い裾から冷気が入り込み、際限なく尿意が高まっていくような感覚に襲われた。できるだけ平然としていたかったが、自由な両脚が自然とくねってしまうのを押さえることができない。

「(もう…だめぇ……はやく、終わってぇ……)」

 溜まっていた涙が、七海の頬を伝って検査台にこぼれ落ちた…


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 真由子は操作室の方から窓越しに七海の様子を眺めていた。検査機を七海の上に移動させたせいで、彼女の腕の先と下半身しか見えないが、尿意を必死に耐えている様子は容易に見てとれた。

「そろそろかな…」

 操作室に来る直前にちらっと見た七海の下着のクロッチの部分は、興奮していたせいなのか、それとも少し漏らしてしまったのか、じっとりと濡れていた。

「(どちらにせよ…時間の問題ね)」

そして検査前に飲ませたのは検査薬ではなく、利尿効果のある栄養剤を混ぜたドリンクだった。たまたま手元にあったもので即効性はないが、多少の効果はあるだろう。

 適当に検査機を操作していたが、案の定、次第に七海の脚の動きが激しくなってきた。内腿をぴったり合わせて、膝頭を交互に交差させながら左右に揺り動かしている。脚だけしか見えないところがかえって色っぽさを感じさせた。拘束された両手は手のひらに爪の跡がつくのではないかと思えるほど、強く握り締められている。

 そして患者の音声を聞くために検査機内に設けられたマイクが、七海の息遣いを拾う。
最初は少し荒い感じがするだけの呼吸音だったが、段々と熱がこもり、激しくなっていく。

「ぁ…ぁ…ぃやぁ…………」

 事情を知らない者が聞けば欲情を覚えてしまいそうな、艶やかささえ感じさせる声。七海の脚の動きがせわしくなるに従って、次第に大きく、はっきりしたものになっていった。

「や…だめぇ……も……ひんっ!」

 もう声を出さずにはいられないほど悶えている様子である。検査機の中ではあの整った顔が涙でくしゃくしゃになっているかもしれない…。想像しただけで真由子の嗜虐心はさらに燃え上がる。

「あの、やっぱり……だめ……お手洗いに行かせ………んぁぁっ!」

 ついに七海は恥ずかしいセリフを口にするが、当然真由子は聞く耳を持たない。

「も…もう限界なのっ!止めてっ!早く!!」

「………止め…て……外してぇ……」

 窓ガラスを通しても聞こえるほどに、一度は絶叫して懇願した七海だったが、次第にその声がか細いものへと変わっていく。当然、彼女の身体を襲っていた危機が去ったからではない。期待をふくらませて七海の様子を見つめる真由子。

「……ぁ…あぁ…や…でちゃ………」

 脚の動きが止まり、一瞬七海の腰が浮き上がったかと思うと、そのまま脱力する。太腿が時おりびくっと震えているようだが、その他に変わった様子は見られない。あれほど激しかった呼吸が止まってしまったのかと思うほど、マイクも全く音を拾わず、検査室の中に静寂が訪れる。

 …しばらくそんな時間が続いた後、突然床で水が跳ねるような音が聞こえ出した。その水音は次第に大きくなり、室内に響き渡る。よく見ると、横たわっている七海のお尻の辺りから、床に向かって恥ずかしい液体がこぼれ落ちていた。
七海がほんの少し身じろぎしただけで、診察台に溜まっていたおしっこが滝のように流れ落ち、ばしゃばしゃと派手な音を立てる。もう彼女の下着と検査着は、熱い液体でびっしょりと濡れていることだろう。

「おも…し…しちゃ……った………ぁ…や…いやぁぁぁあああああ!!!」

 狭い検査装置の中で、突然我に返って泣き叫び出す七海。羞恥心と屈辱感が入り混じり、大人の女性としての慎みなど全く感じられない泣き声。

 その声を聞いていた真由子の両手は半分無意識のうちにスカートの中に潜り込んでいた。いつの間にか火照り出した身体を落ち着かせるように、太腿の付け根の辺りを手のひらでさすりながら熱い吐息をつく。

 昔いじめられていた時のシーンがフラッシュバックのように脳裏を走り抜けるが、何故か嫌な気分にはならなかった。今度こそ本当に過去を忘れられるかも…。そんな淡い期待を抱きながら、憎かった相手の泣き声をぼんやりと聞く真由子だった…。












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