〜アテナ(前編)〜

前編 / 後編






 麻宮アテナは四方を観客に囲まれたリングの上で、当惑しながら佇んでいた。

 地下であるにもかかわらず、スケートリンク場程度の広さのドーム型競技場の中央には、プロレスで使用されるようなリングが設置されていた。周囲を取り囲むように観客席が設けられ、上の方を見上げると2階席まで人で埋まっており、会場内は異様な熱気に包まれていた。

 視線をリングの上に戻すと、アテナの前には2人の少女が立っている。彼女たちが今夜の対戦相手だということは先ほど決まったばかりであった。

「(やるしか…ないのね…)」

 そもそも事の発端は数日前に届いた一通の手紙であった。「キング・オブ・ファイターズ」の開催通知である。世間に堂々と公表されることなく終了した前大会とは違い、世界中の有名な格闘家が参加して、正式なトーナメント戦を行うとの旨が記されていた。事実、その手紙を読んだ日にはマスコミで大々的に取り上げられ始め、過去の大会でアテナと共に勝ち進んだサイコソルジャーチームのことも世に知られることとなった。

 相変わらず大会主催者の顔が見えないのが気にかかるものの、ここまで騒がれた以上辞退するわけにもいかず、アイドルとしての予定を全てキャンセルして一回戦の会場である香港に向かったのである。

「(老師たちは今どこなんだろう…)」

 到着したアテナを待ち受けていたのは、老師とケンスウが乗っていたはずの香港行きの飛行機が機体トラブルのため引き返してしまったという悪い知らせだった。大会を棄権するということも考えたが、彼らと連絡がとれない以上すぐに辞退するわけにもいかず、結局大会の会場まで来てしまった。

 1人で3人抜きしなければならないという最悪の事態も覚悟していたが、主催者の代理と名乗る人物が出した裁定は1対2という変則バトルロイヤル形式であった。どうやら相手チームもそれで了承したらしい。3人抜きするのとどちらが有利かはわからなかったが、一回戦の相手であれば何とかなるだろうと考えたアテナはリングに上がることを決意した。

「それにしても、この会場は一体…?」

 前回までの大会はストリートファイトスタイルで行われることが多かったが、彼女が今いる会場は明らかに特別な試合のために用意されたものであることは明らかである。昔の漫画に出てくる地下プロレス場とでも表現するのが適当かもしれない。すり鉢状の客席の上の方には巨大なスクリーンが設けられていて、試合の様子を映し出すと同時に各国メディアへ中継しているらしい。

 普段から観客の前で演じることの多いアテナにとっては会場の雰囲気自体は特に気にならなかったが、この狭いリングでどう戦うかということが少し気がかりではあった。

 そんなことを考えている内に、レフェリーが彼女の名前を呼ぶ声が耳に入った。どうやら試合を始めたいらしい。お互いリングの中央に歩み寄った後、改めて対戦相手の顔を眺めた。
 推測するに、目の前の少女たちは少なくともアテナより若そうだと思われた。身長にしてもアテナの肩口くらいまでしかなく、ちょうど包(パオ)くらいの年恰好である。ちなみに老師の下で修行中の彼は今回の大会にはエントリーしていない。
 およそ格闘技とは無縁に見える華奢な体を上下一体型の黒いレオタードで包み、手と足にはそれぞれオーソドックスなグローブとブーツをはめている。

 対照的にアテナの方は昨年のコスチュームにマイナーチェンジを施したアイドルらしい装いである。青をベースとして脇に白いラインの入った上半身のコスチュームに加え、下半身の赤いミニスカートの下にはスパッツを着用している。綺麗なロングヘアとヘアバンドの組み合わせはトレードマークとなっていた。

「それでは、始め!」

 開始の合図と共に、観客席がどっと盛り上がる。海外ではあるが麻宮アテナのファンも大勢詰めかけているらしく、彼女への声援も歓声の合間に聞こえてきた。

 まずはバックステップを踏んで彼女たちとの間合いをとった。1対2という変則方式で戦わざるを得ない以上、挟み撃ちにされる事態だけは避けなければならない。先制攻撃から各個撃破するという戦法も考えられたが、相手の実力がわからない現時点では慎重に試合を進めた方が良い。相手は2人とも華奢な体つきであるが、アテナのように特殊な能力を秘めているかもしれないからである。

「サイコ…ボール!」

 ロープ際まで下がったアテナはけん制と様子見を兼ねて右の方にいた少女にサイコパワーの波動を放った。離れた場所から襲ってきた突然の衝撃に驚愕の表情を見せる少女。それを見てアテナは吹き飛ばされた相手の方に猛然とダッシュする。追い撃ちすると同時に、あわよくば1人リング外にはじき飛ばしてしまうことで有利な状況を作ろうと考えたのである。

「ぇ……!?」

 しかし、低い姿勢で飛び込んだアテナの目の前に目標とする相手の姿は無かった。そして動きの止まった彼女のわき腹を強い衝撃が襲った。

「きゃぁぁっっ!!」

 体が宙に浮き、2mほど弾き飛ばされてマットに叩きつけられた。何とか受身を取って素早く体勢を整えたものの、今のダメージによる苦痛で顔をゆがめるアテナ。

「(一体どこから…?)」

「はぁぁっっ!!」

 少女の鋭い声が聞こえたと同時に、アテナの目の前を突然黒い影が覆った。とっさにガードした両腕に鈍い痛みが走る。

「(速いっ…!!)」

 矢継ぎ早の連続攻撃に防戦一方となってしまっていた。この状況では2人の内のどちらに攻撃されているのかすらわからない。一度間合いをとって仕切り直さなければ…そう考えた瞬間だった。

「…遅いよ。」

 いつの間にか背後をとられていた。振り向く暇もなく腰を両腕でホールドされ、裏投げのような格好でリングの端に向かって放り投げられてしまう。ロープの反動で体が跳ね返り、アテナの視界が一回転する。
そのままマットに体が叩きつけられてバウンドする…はずだったが、ふわっと体が浮くような感覚があった後、仰向けに寝転がった状態で少女2人に押さえつけられてしまう。

「……!!!」

 見れば、アテナの両腕にそれぞれ少女が取り付いて関節技に持ち込もうとするような動きを見せている。

「しまったっ……!」

 最初からこれが狙いだったのだろうか。2人とも寝技に関してはよほどの手練れらしく、あっという間に両腕とも”逆十字固め”の体勢に持ち込まれてしまいそうになる。
 あまりにも不利な状況に一気に血の気が引くアテナ。老師の下で格闘技も学んでいた際に、関節技の基礎的な知識に関しては色々と教えられていた。ヒット&アウェイを身上とする彼女にとっては無縁の技のようだが、万が一寝技に持ち込まれてしまったときの対処法を知っておくことは必要であった。

 そうは言っても両腕を固められた今の状況下では、非力なアテナが切り返すことは簡単ではない。両足をばたつかせながら、必死にサイコパワーを身体の中で集束させるアテナ。一気に力を放出して脇の2人を弾き飛ばそうと試みる。
 しかし、それより一瞬早く関節が極められ、アテナの細い両腕が少女2人の腹の上で完全に伸び切ってしまう。限界まで引き伸ばされた筋の付け根から鈍い音と共に猛烈な激痛が走る。

「やぁっ……ぐぁぁっっっ!!!!!」

 およそ清純なアイドルらしからぬ絶叫を上げてマットの上で悶絶するアテナ。腕の痛みもさることながら、行き場を失った念動力の波動が身体の中を駆け巡り、内側から電撃のような刺激が全身を走り抜けて頭の中に火花を散らす。

「ひぁ…あぁ…あ………ひぃっ!!」

 喉の奥から意味不明な声を上げながら、自由な脚をびくびくと痙攣させた。そして視界が白く反転し、意識が遠のきかける。

「やぁぁ…だめぇ……」

 弛緩し切った身体の奥から熱い液体が尿道を通り抜ける感触がショート気味の意識の中でわずかに感じられた。力なく開かれた脚の付け根、濃い色のスパッツの中心から金色の液体があふれ出すのがわずかに見え、そのままお尻の方に伝わっていく。
 マットの上に恥ずかしい水溜りが広がっていくかと思われたが、大部分は吸水性の良い赤いスカートに染み込んでしまった。

「ちょっと…もう終わりなの?」

 すでに技を外して上半身を起こしていた少女たちの顔に不満の色が浮かぶ。アテナの腕を持ち上げてみるものの全く力が入っておらず、手を離せばマットの上にだらしなく伸びてしまう。

「どうするの、サラ?これだとオーナーに怒られるよ…」

「そんなこと言ったって…。シャイアこそ力入れすぎたんじゃないの?」

 サラとシャイアと呼び合った二人がアテナを挟んで目配せしながら会話を始めた。

「ちょっと起きなさいよ…!だらしないわね…。」

「嫌ぁ…も…だめぇ…。ギブ…アップ……」

 魚のように口をパクパクさせながら、喉の奥から必死に声を絞り出す。現時点ではもう闘う意思はほとんど残っていなかった。少女たちの会話の内容から察するに、アテナの両腕に致命的なダメージが加えられたわけではないようだった。しかしサイコパワーの暴走により、まるで伝達神経がその機能をほとんど停止してしまったかのように身体の自由がきかず、立ち上がることすら容易ではなかった。

「じゃぁ、ほったらかしにして帰っちゃおうか?おもらしした格闘アイドルをみんなに見てもらうのも良いかもね。」

「あたしたちがいなくなったら、濡れた恥ずかしい場所がスクリーンに晒されちゃうよ…。」

 2人の言っていることはただの脅しとは言い切れなかった。実際客席の上に設置された大スクリーンには3人がマットの上で絡み合っているところが映し出されている。
 今はちょうど少女たちがアテナの恥ずかしい姿をカメラのアングルから隠すような体勢になっているが、もし1人マットの上に残されてしまったら、動けない彼女の様子が観客の目に無防備に晒されてしまうことは確実である。

「やめて……行かない…で……」

 意識が朦朧としているアテナだったが、少女たちの言っていることは何となく伝わって来た。何より誰一人チームメイトがいない状況で、これだけの大観衆を飲み込んだ見知らぬ会場に放置されてしまったら、この後どうなってしまうのだろう、という恐怖感も込み上げてきていた。

「もう…私の負け…だから……外に連れて行って…お願い…」

 大粒の涙をこぼしながらアテナが懇願するが、2人の少女たちは全く聞き入れようとしなかった。

「だめよ。もうちょっとショーに付き合ってもらわないと、オーナーもお客さんも満足しないじゃないの。」
「サラ、適当に三角締めでもするふりして、上半身押さえといて。」

 サラと呼ばれた少女がアテナの頭の上に回って上半身を押さえ込む。そして指示を出した少女の方は下半身の方に覆いかぶさるようにしながら、アテナの履いているスパッツの裾を両手で掴む。

「やだ。こんなところまでびしょびしょじゃない。匂いもきついし…」

「やぁぁ…そんなこと言わないでぇ…………きゃぁぁっっ!!!」

 アテナが悲鳴を上げると同時に、濡れたスパッツが膝のあたりまで一気にずり下げられた。濡れた秘所がインナーショーツ越しに外気に触れて冷やりとした感触が身体に伝わり、意識が次第にはっきりし始める。

 妖しい笑みを浮かべながら、異口同音に2人の少女が言った。

「さ、ショータイムよ、アテナ……」









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